2010年3月19日

No.135 選ぶということ

いよいよ明日は卒園式です。卒園児の名簿を眺めながら、子どもたち1人ひとりのことを考えています。子どもたちのいろんなエピソードを思い出したり、どこまで育ちを支えることができたかを考えたりしています。前回は「人との出会いを大切にしてほしい」という子どもたちに対しての願いを書きました。今回は「選ぶ」ことについて書きます。

以前、「いきものがかり」というグループの水野良樹さんがこんなことを言っておられました。『一つのことを選ぶと一つの道が消える。好きな道を選べばよいとか、自分のやりたいことだけをやればよいとか、よく言われるが、ひとつの道を選ぶことはすごく責任のあることで、すごく厳しいことだと思う。』

この言葉はとても深い意味がありますし、いいなぁと感じました。子どもたちは毎日の生活の中で様々な場面で選択をしています。今日はどんなことをして遊ぶか、ごはんはどのくらい食べるか、といったこともそうです。一見簡単なことのようにも思えますが、選ばなかった他のことは諦めなければいけないと考えると、そこにも厳しさが見えてきます。「多い」ごはんを選んだ子は、途中で「しまった!」と思っても食べきらなければいけません。こうした活動の中で、自分の選択には責任が伴うことを学んでいきます。

また、選択するときには自分自身の経験が参考になります。そのためにも様々な経験は必要です。また食事を例にとると、食べたことのない料理が出てきた時、過去に食べた様々な料理の色や匂いを参考にして想像することは、どのくらい食べられそうかの判断を助けてくれます。しっかり食事をとっておかなければ体力が持たないことを知る経験は、量の調整の精度が上げることを助けます。子どもたちの様々な体験が、選択の質を上げていくことを支えてくれます。

人生は選ぶことの連続です。自分がどんな道を歩んでいくか、自分で決めていかなければいけません。何かを諦める厳しさも同時にあります。子どもたちが今後様々な「選ぶ」場面に直面したとき、それを避けることなく、前向きに捉えられるようになってもらいたいと思っています。保育所での生活は、そのための基礎作りの場でもありたいというのが私たちの思いです。選択の基準となるものは、その人の個性です。自分の個性を大切にして、自分らしさと責任のある選択ができる人になってもらいたいと思っています。大きな願いです。

2010年3月12日

No.134 人との出会いを大切に

来週は卒園式です。今週初めて卒園式の練習に参加し、あらためて12名のぞう組一人ひとりの顔を見ていると、ずいぶんたくましくなったと感じます。おそらく来週は、この子たちにはこんな大人になってもらいたいとか、こんな力をつけてもらいたいといった願いばかり考えているんだろうと思います。今もこの文章を書きながら、そんな事ばかり考えてしまいます。

子どもたちにつけてもらいたいと思っている力の1つに「コミュニケーション能力」があります。ひとりごとでも何度も書いていることです。コミュニケーション能力は伝える力というよりも、伝えることによって自分の考えが深まるということが大事です。共同的な学びということが盛んに言われていますが、これは共同作品を作るとか共同して何かをするということではなく、人の考えを聞いたり自分の考えを言ったりして、それらの考え方を共有して学びを深めていくこととが、もっと大切にされなければいけない点だと考えています。

子どもたちは今まさに「自分」を作り上げている段階です。その段階で大事なことは、やはり私はいろんな人との関わりだと思っています。本当の個(アイデンティティー)は集団を基盤にしないと育ちません。例えば、みんながいることで自分が何者かがわかります。自分と同じ考えの人に共感することや、自分とは違う考えを持った人と出会うことで、自分はこんな考え方を持っているんだと確認できます。自分の特徴がよくわかります。また、多くの人と関わる中で生まれる様々な感情は、他人に対しての想像力の基礎になっていきます。自分を高めてくれる周りの人を大切にすることが自分を大切にすることにつながり、そして自分を大切にすることが更にみんなを大切にすることにつながります。多くの人との出会いを大切にしてもらいたいと思っています。

話は大きく変わって、最後に1つ報告です。昨年の7月のこと(お知らせが遅くなりました)ですが、あさり保育所の活動を日本教育新聞で取り上げてもらいました。テーマは『情緒の安定』で、内容はみなさんも良くご存知の、あさり保育所の日常です。保育所の法律ともいうべき保育指針が新しくなり、それをどう保育の中で実践していくかが全国の保育園の大きなテーマなのですが、その実践例としてあさり保育所の実践を書かせてもらいました。「情緒の安定」という視点からも、子どもたちの生活を眺めてみてください。

2010年3月5日

No.133 季節感のある伝承文化を大切に

いきなりですが、保育所では、室内装飾は季節を伝える大切な保育環境と考えています。季節の活動を表現した子どもの作品や、壁面装飾、本物の草花など、保育所の中には四季を感じるものが多くあります。食事では、サンマの美味しい時期には焼いて食べたり、1月7日には七草粥を食べたりと、生活の中に季節感が途絶えることはありません。

また、保育所では季節感のある伝承文化も大切にしています。あさり保育所の行事は4種類あります。子どもの発達を保護者に伝える行事、普段できないことを体験するための行事(お泊り保育など)、親子の関わりを楽しむ行事(親子遠足、夏祭り、運動会の親子競技など)、そして伝承行事の体験です。子ども達の発達を伝えるために保護者のみなさんに来ていただく行事と言えば、きっと夏祭りや運動会、発表会あたりが印象深いものになっているはずです。運動会は健康や運動の面の育ちを、発表会は言葉や表現の面の育ちをお伝えできるように工夫しています。

そうしたものとは違って保護者の方が参加するものではないのですが、子どもたちに経験してほしいと思って力を入れていることに、季節ごとに巡ってくる日本ならではの伝承文化との出会いがあります。3日(水)に行ったひな祭り会もそれにあたります。家庭で本格的な雛段飾りをするところは減っていることから、毎年遊戯室のステージに大きな雛壇を飾るようにしているのです。ひな祭り会以外にも、七夕やもちつき会、節分など、一年を通じて伝統的な行事を欠かさないように心がけています。もし、地域や家庭で日本の伝承行事が受け継がれていて、その経験を子どもが十分にできるのなら、同じことを保育所でやる必要はあまりないでしょう。しかし、そうした経験をすることが難しくなっているからこそ、保育所での生活の中で経験させてあげたいのです。

ひな祭り会では、ぞう組さんが飾ってくれた雛段飾りの周りに自分たちで作った雛人形を飾って、みんなでその行事を楽しみました。その日の昼食はひな祭りの特別メニュー「ちらし寿司、すまし汁、菜の花和え」で、春を感じることのできる内容でした。こうした活動の「雰囲気、匂い、味わい」などの記憶が、子どもたちが日本の文化を受け継いでいくことにつながっていくと思っています。