2016年10月28日

No.467 食事の場の振り返り

あさり保育園には自分たちの保育を振り返るための指標があって、今それを整理しているところです。その作業をしながら、やっぱり指標は大事だと再確認できました。指標があることで、出来ていること、まだ十分ではないこと、それをどう改善していけばいいかなどが見えてきます。自分たちはどの山の頂上を目指しているかが明らかになっているから、今歩いている道で間違っていないとか、ちょっと装備が足りないとかが分かるのと同じです。その指標をみなさんにも知ってもらって思いを共有することは大事なことなので、どんな指標なのか、その一部を紹介します。今回は乳児の食事に関する項目です。

□子どもの発達に応じた援助が行われていますか
子どもが自ら食べようとする気持ちを大切にしていますか



上の写真は保育者が食べさせてあげている様子ですが、この子たちも自分で食べようとする意欲は十分にあります。もっと食べたいと、思わず自分からごはんに手を伸ばしてしまうような、絶妙なペースでの介助を保育者は目指してくれています。自分で食べたい気持ちが育つことが、食の営みを豊かにする基礎となるからです。

□少し発達の違った子がいて、食事をしている姿を見ることができますか
モデルとしての他の子どもを見ることができますか



上に書いた子の目の前では「自分で食べることができる」「介助があまりいらない」子どもたちが食事をしています。その子達の姿を見ながら、そこから刺激を常に受けられる環境で食べることができるわけです。



そして自分たちで食べることができる子達からは、もっと上手に食べているぱんだ組の子の食事風景がチラッと見えたりします。さらに、ぱんだ組の子はぞう・きりん・くま組の子が食事の準備をしている様子を見ながら食べることができるようになっています。そしてぞう組の子が1名入っているテーブルもあって、上手に食べることのできる子の様子を近くで見ることができるようにもしてあります。

単に栄養を摂取する場ではなく、他の子からは刺激を受けて食べることへの関心が高まる場になるよう、振り返りを継続していきます。

2016年10月21日

No.466 繰り返しと語って聞かせることの大切さ

以前、昔話に興味を持ったことを書きました。その興味はまだ続いていて、使われている文法や特徴、語り口の面白さにすっかりハマっています。例えば、いつどこであったことかを特定しない(昔々あるところに…)、数は1,3,7などが好まれる(こぶたは3匹、こびとは7人)、色は原色が多い(白、赤、黒)、同じ行動やかけ声が繰り返される(「お腰につけたきびだんごを1つくださいな」の繰り返し)、森には○○と△△の木が生えていて…と詳しく説明はしないなど、たくさんの特徴があります。みなさんの知っている昔話を思い出してもらうと、これらの特徴が当てはまるはずです。昔話は口伝えで語られてきたものです。そのため話はシンプルであることが重要だったそうです。複雑な描写をしてしまうと聞いている方も分かりにくいし、語り継がれているうちに伝言ゲームのようにどんどん変化してしまいます。数や描写はシンプルで整理されたものに、同じ場面は同じ言葉で繰り返すなど、聞いている人ができるだけ理解しやすいように、そして話を楽しめるように、昔話の文法は出来上がったそうです。

「繰り返し」を考えてみます。子どもは繰り返しの表現を好みます。同じ話や同じ絵本を好む傾向もあります。さっき読んだばかりなのに「また読んで!」と何度もせがまれた経験はありますよね。そのときに「どうして進歩しないんだろう?」「違う話や違う絵本に興味を持っていろんな知識をつけてほしいのに…」と大人は思ってしまうかもしれませんが、子どもにはぜひ繰り返しの楽しさを存分に体験させてあげてください。繰り返すことは「もう知っていることと再び出会う喜び」を味わうことです。安心感が生まれ、安定した心の成長につながる、大事な体験です。絵本を読んであげたり話を聞かせてあげるとき、子どもの「もう1回!」にじっくりとつき合ってあげてください。

「語って聞かせる」を考えてみます。語りを聞くときは、自分の頭の中でその情景を想像しながら聞きます。絵を見ながら話を聞く絵本とは違う点です。「おじいさんはやまへしばかりに」と聞いたときに想像する「おじいさん」「やま」「しばかり」は1人1人違うはずです(「柴刈り」は子どもには想像できないかもしれませんね)。想像は体験で得た知識を総動員して行います。知らないことでもあれこれ想像することは楽しいですし、体験によって知識が増え、言葉が意味するものが分かるようになることも楽しい体験です。目と耳の両方から同時に情報が入ってくるメディア(テレビなど)が多い時代だからこそ、想像すること、聞いたことと経験して得た知識が結びついて分かる楽しさを、数多く体験させてあげたいですね。ところで「トゲアリトゲナシトゲトゲ」という虫を知っていますか?ぜひ奇妙な姿をあれこれ想像して楽しんでみてください。



2016年10月15日

2016年10月

6月以降お休みしていた給与コメントを、今月から再開します。事業に対する考えや、みなさんにも考えてもらいたいこと、ときにはどっちとも言えないものを書いたりしていきます。日々の行動や思考のきっかけにしてもらい、仕事に対する思いを共に深めていきましょう。よろしくお願いします。

私たちの事業には理念があります。介護事業は「人生を全うするお手伝い」、保育事業は「人生の基礎づくりのお手伝い」、そしてその理念を実現するための指標として、『「ひとり」を大切にする介護』『「ひとり」を大切にする保育』があります。では私たちは、この『「ひとり」を大切にする』をどれだけ理解し実践できているでしょうか?

11月22日(火)に施設内研修を行います。テーマは「LGBTについて」。LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの総称で、きちんと理解している人はかなり少ないのではないでしょうか。もちろん私も理解していない1人です。講師はバイセクシャルを公言しておられるMさん。当事者だからこそ話せることをみなさんに伝えたいと話してくれています。

性には男と女の2種類しかないと考えていた私は、それ以外にLGBTの違いがあって、さらにその中にもいろんなタイプがあると聞き、性についての十分な理解ができていなかったことを思い知らされました。1人ひとりの違いをきちんと理解できなかったわけです。LGBTのことを学ぶ今回の研修は、それが直接私たちの仕事の役に立つ、そういう種類の研修ではありません。でも、違いについて“まだ知らないことがある”と謙虚になるきっかけにできるはずです。

こちらの都合で、こちらの知っていることだけで「この人はこういう人だ」と決めつけてしまう姿勢があるとすれば、それは『「ひとり」を大切にする介護』『「ひとり」を大切にする保育』には馴染みません。自分の知らない違いがまだあると考えることが、違いに対する視野を広げることにつながり、広がった視野によって「ひとり」を大切にする思いも変化すると考えています。



仕事に対する思いを深めていくきっかけは、いろんなところにあります。そのことに気づき、それを自分たちの仕事における行動のきっかけにできるかどうかは、結局のところ受け止め方次第です。例えば上の写真はトイレのサインボード。LGBTの方々はこのサインをどのように見ているんでしょうか?こんなことを想像するだけでも研修に興味が湧いてきませんか?

2016年10月14日

No.465 柔軟さ、調整力、多様さを楽しむ感性




運動会から3週間が経とうとしていますが、今でも運動会の取り組みが遊びの中で繰り広げられています。上の写真は子どもたちだけでリレーをするために集まっているところ。チームの人数を調整し、走る順番を決め、スタート・ゴールの位置を決めて…と準備をしている場面から見始めたのですが、全てが決まっていよいよスタートかと思ったら、そこへ小さい子が「入れて〜!」とやって来ました。時間をかけて調整をし、やっとスタートできるところまでこぎ着けたのに、ここでその子を加えると人数が合わなくなるし、走力をみてどちらのチームに入れるかを考える必要も出てきます。ここは少し待ってもらって2回目のリレーから入ってもらう選択肢もあるんじゃないだろうか、子どもたちはどうするんだろう?と、次の展開を楽しみにしながら見ていました。

子どもたちの判断は非常に早く、「いいよー、じゃあこっちのチームに入って、こうしてああして…」とどんどんチームの変更が進んでいきました。もちろんそう判断する可能性が高いのは知っていたので特に驚きはしなかったのですが、その後の行動の速さにはちょっと驚かされました。一見簡単そうにやっているように見えましたが、この行動の難易度は結構高いと感じました。一度決まったことを変更する決定をあっさりとしてしまう柔軟さ、メンバーの入れ替えを瞬時にやってしまう調整力、そうした行動の元になる「いろんな子が加わった方がリレーはおもしろくなる」と感じる感性は、どれも子どもたちに身につけてもらいたいと考えているものです。リレーが始まるまでの短いやり取りでしたが、子どもたちが日々の生活や運動会を通して学んでいることが詰まっていて、興味深く見させてもらいました。もし保育者主導で行っていたとしたら、決してこんなやり取りは生まれていなかったでしょうね。

もちろんこうしたやり取りは他の子どもたちの前で繰り広げられています。その時の様子を注視している子の姿は見られませんでしたが、内容は違っていても似たようなことは日々行われていて、それらを見る機会はあちこちにあります。「どんな力をつけていけばいいのか」も見て学ぶことができるのが保育園です。4月から認定こども園になって1号認定(基本の生活時間は9時〜14時)の子が加わることになると、今までにはなかった小さな変化が生まれてくる可能性があります。互いに影響し合う存在が多様になることは、当然大変なこともあるでしょうが、その大変さも含めてどの子にとっても育ちのきっかけが増えることでもあるので、そのことも楽しみにしています。

2016年10月7日

No.464 認定こども園に変わります②




これは高橋源一郎氏(文学者、明治学院大学教授)が、アメリカのサドベリー・バレー・スクール(4歳〜19歳までの子どもが通う私立校)の教育について、ずいぶん前にTwitterに書き込んでおられた言葉です。この言葉がずっと気になっていて、今回ここで取り上げることにしました。サドベリー・バレー・スクールの教育哲学は「幼年期に子供に信頼と責任を与えることによって、自分が何をしたいのか、なぜそれをしたいのか、どうやってそれを成し遂げるのかを子供は学ぶことができる」というものです。教育という言葉の本来の意味「持っている力を引き出す」の実践を追求している学校だと理解しています。

なぜこんなことを書いているかというと、この考え方が保育とも共通点が多いと考えているからです。子どもが持っている「自己教育の本能(自ら伸びようとする力)」を信じ、その力がどんどん湧きだしてくるような関わりの場を作り出し、環境を設定することが、私たち保育者の役割です。「子どもは白紙の状態で生まれてくるので、大人がそこに色をつけていく」というのは、既に過去の考えになっています。様々な研究の結果、「子どもたちの持っている力を、大人だけでなく子ども同士の関わりの中で引き出していく」というのが今の考え方です。保育園に限らず乳幼児が生活する場はこのような場であるべきで、子どもたちの成長には欠かすことのできない場です。そうであるなら1人でも多くの子どもに利用してもらえる施設に近づけていきたい、そんな思いから認定こども園へ変わることを決めました。

以前書いたように、子どもたちの生活に変化はありません。ただ、今までは市と契約を交わすことで利用してもらっていたものが保育園と契約してもらう形に変わることなど、保護者と保育園とでやり取りすることが新たに出てきます。そうしたことについての説明会を今月14日に予定していましたが、準備が遅れているため延期させてもらいます。日程が決まればお知らせしますので、ぜひご参加ください。子どもたちの生活は変わりません。保護者のみなさんと共に、地域の方々と共に保育を作りあげていく思いも変わりません。安心して来年度を迎えてもらえるよう、準備に励みます。