2009年10月30日

No.117 科学する心

11月の園便りで書かせてもらいましたが、「科学する心」についてここでも少し書いてみます。私は「科学する」ということと「他人の気持ちを理解する」ことはつながっていると考えています。「科学する心」とはどういうことかを考えていると、「他人の気持ちを理解する」ことと非常によく似ているなぁと感じるからです。

「科学」とは、研究者が研究室で何か難しいことをやっていることだけを指すのではなく、生き物の生態を見たり自然の変化を感じたりする中で「なぜだろう?」「どうなっているんだろう?」と考えてみることも「科学」の1つです。例えば道路でも見かけたりするカマキリ、そのカマキリの赤ちゃんはとても小さい体です。大きくなったカマキリは何でも捕まえて食べるでしょうが、赤ちゃんはあの小さな体で何を食べて大きくなっているんでしょうか?自分をカマキリの赤ちゃんに置き換えたとき、周りのものがどれだけ多く見えるんだろうかとか、自分に合った大きさの食べ物は何があるんだろうと興味が沸いてきませんか?例えば大雨で増水して流れが強くなった川の中で、魚たちはどうしているんでしょうか?抵抗するけど流されて下流までいくのか、それともどこか流れの弱い場所を探してじっとしているのか。またまた自分を魚に置き換えたとき、何時間も続く激流の中で果たして無事にいられるだろうかと不安になりませんか?

自分を「自分と違うあり方で存在している他者」へ置き換えてその立場を想像することで、それまでは自分とは無関係だった世界が自分の世界として目の前に広がってきます。虫なんて関係ない、魚なんて関係ない、もっと言えば他人のことなんか自分とは関係ないと思っていたことが、その瞬間に自分のこととして感情を大きく揺さぶられる、そんな感覚を味わうことになると思います。この「他者への想像力」は、まさに「他者の気持ちを理解する」ということに通じます。そんな風に考えていると、科学離れが進んでいることと、他人とのつながりが希薄になってきたことや、人との関わりの苦手な子が増えてきていることは、決して無関係ではないような気がしてきます。子どもが本来持っている好奇心を刺激し「科学する心」が育まれ、「他者の気持ちを思いやる心」も豊かになってほしいと思っています。そのためにも「なぜ?」と問いかける子どもの姿を大切にしたいと思います。

2009年10月23日

No.116 あさりレストランが開店しました

21日(水)に、ぞう・きりん・くま組さんがレストランスタイルの食事を体験しました。内容は、子どもたちの代表がレストランのスタッフになって席に着いた子どもにお茶を運び、注文(量の多い少ない)を聞き、料理を席まで運んであげるというものです。「あさりレストラン」の開店時間は11:30~12:30で、その間なら好きな時に食べに来ていいというルールです。食べるものや場所はいつもと変わりませんが、雰囲気はいつもと全く違いました。スタッフになった子どもたちは、休みなくやってくるお客さんの対応で大忙しでしたが、その表情はとても生き生きとしていたのが印象的でした。レストランのスタッフという役割に対しての責任感が伝わってきましたし、何よりその役割を持ったことを喜んでいるように感じました。

ぞう・きりん・くま組さんのお便りには、『「少しください」というお客さんに対して「少しだと、ごはんもお汁も全部少なくなるけどいい?」と確認したりするやり取りも見られた』と紹介されていました。子どもたちは短い時間の中で、何をどう伝えればいいのか、自分たちでいろいろ考えていたようです。とても貴重な時間になったと思います。そうしたやり取り以外にも、素敵な言葉も聞かれました。一生懸命働くスタッフは、当然自分たちがごはんを食べるのは最後になってしまいます。そのことにスタッフ以外の子が気づいたようで、「あの子たちはごはんがなかなか食べられないね」と気遣う発言がありました。こんな言葉が自然と生まれてきたことには、本当に嬉しくなりました。

今回子どもたちは「スタッフ」と「お客さん」という役割に分かれました。この場で何度も何度も書いていることですが、あさり保育所では子どもたちが役割を持って活動することを大切にしています。役割は、他人との関係の中で生まれてくるものです。集団がなければ役割は生まれてきません。様々な人がいて、様々な役割があって、そうやって集団や社会が作られていくという言い方もできます。さらに、自分の役割・立場を超えて他人の立場にまで思いをやることができるのも、集団の持っている大切な点だと考えています。様々な違いを認め合うという意味でも、他人の立場に思いをやることは大切で、そうした姿を見ることのできたレストランスタイルの取り組みは、意味の大きな活動だと感じました。不定期ではありますが、今後も続けていく予定です。

2009年10月16日

No.115 B保育士の草木染め

11月28日(土)は発表会、そこに向けての取り組みが本格的に始まってきました。とはいってもこの時期に「よーいどん!」と始まるのではなく、発表会につながる取り組みはずいぶん前から行われています。発表会の目的の1つ「普段の保育を厚くする」ために、発表会に向けての取り組みをどう保育の中で実践していくかということも大事な点です。年に1回の行事ですが、そのとき限りの経験ではなく、日々の経験、年々の経験がつながっていかなければいけません。これは子どもだけではなく職員も同じです。というわけで、今回は「B保育士の草木染め」を取り上げてみます。

今年も自分たちで作った衣装を身にまとって登場する「ファッションショー」がありますが、そこで使う素材集めはずいぶん前から始まっています。その素材の1つは「草木染めで作った布」で、子どもたちと活動の中で準備してきました。この活動はB保育士が中心になって行っているのですが、ここには昨年の発表会との深いつながりがあります。実はB保育士は去年の「ファッションショー」でも草木染めで作った布を使おうとしていたのですが、あきらめなければいけなかったという経験がありました。

どういうことかというと、昨年草木染の布を使おうと計画したのが10月の終わり頃で、その時期には染めるのに適した植物がなく、あきらめるしかなかったというわけです。そのことを悔しく思ったB保育士は「来年こそは!」と決意し、草木染についての研究を始め、春からコツコツと素材集め、染の作業を行ってきました。失敗も多くありましたが、研究の成果もあり予想していた以上のきれいな色に染めることができたようです。

子どもたちも関わって作った素敵な作品なので、ショーの衣装を作り始めるまでの短い期間ではありますが、園舎内に飾ることにしました。何で染めたかは布に記してあります。植物の不思議な力を感じることもできると思うので、ぜひ染まり具合を見てください。繰り返しますが、発表会の取り組みは日々の経験のつながり、年々の経験のつながりが大切だと思っています。子どもたちだけでなく職員もこうしたつながりの視点を大切にし、今年の取り組みの経験が発表会以降の保育につながり、さらに来年へつながっていく連続性を楽しんでいきたと思います。

2009年10月9日

No.114 みんな違ってみんないい

台風18号の被害がこのあたりはそれほど大きくなく、昨日の親子遠足は予定通り行うことができました。他県ではかなりの被害が出ているところがあるようで、自然の怖さをあらためて思い知らされました。保育所の行事もこうした自然の力に逆らうことはできないので難しさはありますが、基本的には中止したくないというスタンスで、それでも決して無理をすることのない判断を今後もしていきたいと考えています。

自然の話でスタートしたので、自然から考えさせられた話を紹介します。保育所にもメダカが住んでいる小さな「ビオトープ」が園庭の隅にありますが、このビオトープは別名「トンボ池(トンボが卵を産むための池)」とも呼ばれます。トンボは飛行距離があまり長くないので、ある限られた区域の中だけで生活することになります。その中で遺伝子を残すために繁殖を繰り返すわけですが、そうすると持っている遺伝子の種類が限られてきて、同じ種類の遺伝子になっていきます。そこに何か病気がパッと入ってくると、その集団は一斉に病気にかかり全滅してしまうそうです。同一の遺伝子のみの集団は病気や環境の変化に弱いため、いろんな遺伝子があることも必要だということです。

私たち人間も生き物である以上、遺伝子を残していくという本能の働きがあります。もし人間が1つの遺伝子、1つの役割や価値観しか持たなかったとしたら、どこかで人類は滅びていたであろうとも言われています。だからいろんな遺伝子や役割、価値観を持った人が存在していると考えられています。男と女で役割が違っているのもそうでしょうし、様々な性格や能力を持った人がいるからこそ、人類が繁栄してきたとも言えると思います。そして、誰かが「○○じゃないかな」という意見に対し「いや、私は△△だと思うよ」と言うように、様々な考え方があることもとても大切なことです。そうした個々の違いを認められること、全ての人がそれぞれ違う役割や価値観を持ち、それを生かしながら集団を作っていくことは、人が生きていく上で重要なことだと思っています。

金子みすずさんの「みんな違ってみんないい」ではありませんが、違いがあることには大事な意味があり、その違いを互いに尊重しあうことに生きる意味感じることのできる、そんな人になってもらいたいなぁと、子どもたちを見ながら思います。

2009年10月2日

No.113 ぞう組さんの当番活動

ぞう組さんの仕事の1つに「食後のランチルームの掃除」があります。みんなの食事が終わった後、ランチルームのテーブルとイスをテラスへ運び、床を雑巾で拭いてきれいにしていきます。2人で行う仕事なのでなかなか大変だと思いますが、様子を見ているとやらされているという感じはなく、子どもたちの主体的な取り組みになっていると感じます。そんな様子を見かけたとき、「きれいにしてくれてありがとう。みんなが喜ぶね。」と声をかけると、とてもいい表情を見せてくれます。ぞう組さんの役割はそれだけではなく、布団敷き、うさぎ組とりす組の手伝い、ぱんだ組と一時保育の手伝いなどがあり、毎日活躍してくれています。

子どもたちは保育所での生活の中で、自分の役割をもち、どう行動するかも毎日学んでいるわけですが、当番活動はみんなのためという意味合いもある活動です。脳科学者の茂木健一郎さんは、「脳の成長には、どんな小さなことでもいいので喜びを感じることが大切」と言っておられます。ごはんを食べて美味しいと感じたり、何かができるようになって嬉しいと感じたりすることも、脳の成長のためには大切なことです。そして同じ喜びでも「他人のために何かすることを自分の喜びと感じられる」、そんな喜びの体験はもっと重要だとも言っておられます。この「他人のために何かすることを自分の喜びと感じられる」のは、人間の特徴だそうです。

そんなことから考えると、もともと人間は他人と社会を築いて(共生)、他人のため、社会のために何ができるかを考えて生きていく(貢献)ことで進化してきた存在だとも言える気がします。この「共生」と「貢献」は、あさり保育所で今後もっと大切にしていきたい概念です。これらは関わりの中で育っていく力です。でも少子時代になり、家庭や地域の中に子ども集団ができにくく、関わる場が生まれにくいのが現状です。そんな時代だからこそ、大きな子ども集団を持っている保育所の役割はますます大きくなっていくと思っています。社会の中で自分の役割をみつけ、そして他人のために社会のために何ができるかを考えることのできる、子どもたちにはそんな人になってもらいたいというのが私たちの願いです。保育所での当番活動にはそんな力をつけていく意味もあると、少し大げさかもしれませんが、そんな風にも考えています。