2017年12月22日

No.524 冬至って何だろう?

昨年まではキャンドルナイトの名前で行っていたイベントが「冬至って何だろう?」と名前を変えて実施されました。名前は変わりましたが、年長児がイベントの企画・準備・運営を行ってくれる部分は変わりません。12月に入ってからそのための活動が日々行われてきました。こども園の生活はおもしろく、一見ただそのときの興味関心で遊んでいるだけのように見える風景でも、先を見通した活動、自分のためというよりはみんなのための活動、話し合い活動などが入り込んでいます。しかもそれがまるで遊びのように組み込まれるのが特徴で、その取り組みが日々の遊びを豊かにするし、その遊びの経験が先に書いたような意図的で計画的な活動をより充実したものにしてくれます。この流れを生み出す意味でも行事の意味は大きく、メリハリをつけるだけでなく活動を徐々に深いものにしていくものとして大事にしています。

「冬至って何だろう?」では、年長児が受付、司会、出し物等で、とてもいい表情で楽しそうに取り組んでくれました。会を運営することを楽しんでいる様子はこの日までの姿からも感じていましたし、そのために話し合って調整する力なんかもずいぶん育ってきていると聞いています。こうした姿はある年齢がきたら自然と身につくものではなく、日々の生活の中で意見を主張し、ぶつかり合い、自分の思いとは違ったところに相手の思いがあることを想像するといった経験を積み重ねることによって、そのことで遊びや活動がより楽しいものになると実感することによって、獲得していくものだと理解しています。良い経験を積み重ねてきたんだなと、嬉しく感じた「冬至って何だろう?」の会でした。



さて、年が明けた1月の保育参観の場では、O保育士が保護者のみなさん向けにある発表をしてくれることになっています。その内容は「子どもたちが自制心をどのように獲得していくか」です。当日の発表をぜひ聞いていただきたいのでここで詳しく書くことはしませんが、自制心はなぜ大事なのか、こども園の生活の中のどんな経験が自制心の獲得につながっているのか、これらは0歳児から考えていく必要があることで、それを子どもたちの活動の映像を観ていただきながら伝えるものです。こども園で行われている保育の意味についてはまだまだ発信不足なので、こうした機会はもっと作っていかなければいけないと思っています。保護者のみなさんに少しでも理解してもらいやすい形で届けるためにはどうすればいいか、そんなことをO保育士が深く深く考え続けてくれています。1人でも多くの方に当日の発表を聞いていただきたいと思います。

今回が今年最後の「園長のひとりごと」です。印刷して保護者に配布する形をやめ、web上のみで発信する形に変えて半年が経ったところです。自分の中に「どう読まれるだろう」「この意図をなんとかして伝えたい」といった思いが弱くなっている反省もありますし、発信すべきものを発信すべきタイミングで届けられていないという根本的な課題に対しても反省しています。もっと気軽に、もっとタイムリーな発信を、いろんな方法で試していきたいと思っています。 来年もよろしくお願いします。

2017年12月15日

No.523 子どもの行動の裏には発達が関わっている

「りんごの木」代表の柴田愛子さんのインタビュー記事を読みました。
子どもに真っ直ぐ向き合ってこられた方の言葉はやはり力がある!と感じましたし、勉強になることが多くありました。子育てをしていると、子どもの行動に悩まされることは多くあります。でも、その行動の意味を理解すると受け止め方も変わるし、対応も変わってくるものです。基本的には、子どもは発達上必要なことを行動に移しているだけであって、大人を困らせようとしているわけではありません。そのことについて、柴田さんは次のように話しておられます。

実は子どもの行動の裏には発達が関わっているのよね。
なんで障子に穴を開けるかって、指が思うように動くようになって、プッシュできるようになるから。リモコンやスマホも同じよね。
自分が働きかけると相手が反応するってことを楽しんでいるのよ。
それが終わるとね、今度は指でモノを挟めるようになって、何が始まるかって言ったらそれがティッシュに行く(ティッシュを際限なく取る行動のこと)のよ。

子どもってね、自分の機能が発達してくると、うずうずしてきて、発達に合ったものがちゃんと見えるのよ。
人間として育つ能力を子どもは持ってるってことよね。
そう考えて、私は「子どもは汚い・うるさい・危ないなんだ」って諦めてみたの。
そうすると、「なんでそんなことするの!」って思う気持ちも少しは落ち着くわよね。


子どもの発達が分かると行動の意味を理解できるようになり、発達の道筋が分かればどんな環境を用意しておけばいいかも分かってきます。例えば上で出てきたティッシュを際限なく取る行動が出てくると、つまんで引っ張ることができるティッシュに代わる別のものを用意しておくことで、発達上の欲求を満たすこともできると考えられます。ただ、そうしたことを親だけで全部考え、全部対応していくのはかなり難しいことです。子育ては親だけでするものではありません。親だけではできないというのが正確かもしれません。子育ては社会全体で行うことなので、困ったときは遠慮なくこども園を頼ってください。一緒に考え、子どもと関わることの楽しさを共有していけることを、私たちも望んでいます。

2017年12月

【研究発表】
先月行われた島根県保育研究大会の分科会において、さくらこども園のFさんがグループホームとの交流の中で見えてきたことについて発表してくれました。以前から交流はありましたが、互いの距離を見直して日常的な交流をしていくためのプロジェクトが動いていたこともあり、交流の形もずいぶん変化してきました。その交流によって、園児にはこんな変化があった、交流のあり方についてこんな課題が見つかったといったことをまとめてくれた発表です。グループホームでも園児との関わりによって入居者にどんな変化が見られるかを記録し、交流のメリットを明らかにするような取り組みが進んでいくことも期待しているところです。全くの思いつきですが、グループホームの職員とこども園の職員が一緒に研究発表へ出かける機会があってもいいかもしれません。両者の声を同時に聞いてもらうことで、交流を迷っていた施設があれば動くきっかけを与えることにもなりそうですし、何よりそこに向けて話し合っていくことも私たちの取り組みを深めることにつながりそうです。

【つながり】
「つながり」「つなぐ」を大事にしていきたいと考えています。例えば子どもは周りの人からたくさんの刺激を受け、自分もやってみようと意欲を持ち、そして行動することで成長していくわけですが、これも他者との関係(つながり)があるからこそです。私たちの仕事も同じで、成長や変化のためには同僚や同業者の活動、周囲の様々な方(つながり)からの刺激が必要です。つながりがなくても成長できないわけではないですが、どうしても視野は狭くなるので多様な変化・成長は難しいでしょう。私たちの福祉の仕事の意味、福祉の網を張り巡らせることを考えると、やはりつながりは必要です。

グループホームとさくらこども園をつないだことで新たな気づきが得られたように、デイサービスの文化祭でこども園の作品も展示して利用者の制作意欲を刺激することをねらったように、花の村の事業所同士をつなぐことで、介護・保育の幅を広げるきっかけにもなります。また、事業所にはない強みを持った外部とつながることで、お互いの困っていることを補い合うこともできると思います。私たちの持っている力、各事業所の持っている力を目一杯発揮していくためには、自分たちと他をつなぐことがこれからの活動のポイントになっていきます。

【つなぐ】
そんなわけで、今後の花の村は「つなぐ」ことにこだわった事業展開を目指していきます。地域を創造し、活性化するためには不可欠なことと理解してください。つながり方に正解はありません。みなさんもいろんなパターンの「つなぐ」を試してみてください。そして、みんなでみんなの「困っている」を解決していきましょう。

2017年12月8日

No.522 事務室ランチ

今週から事務室での食事会が始まりました。昨年も行いましたが、ぞう組さん3名とランチルームではなく事務室で食事をします。これを4日間行って全員と食事するのがこの食事会で、ただそれだけのことなのですが、毎年結構な盛り上がりをみせています。いつもとは違う場所で食べる、しかも事務室でとなると、やはり楽しさが増すのでしょうか。食事は楽しさを感じながらとることが大きなの目標でもあるので、規模は小さいですが大事な取り組みです。



ここでのルールは、電話がかかってきたり大事な話をしたりする部屋なので声は控えめにする、小学校の食事時間に合わせて30分で食べ終わることを目指す、この2つくらいです。最初の「声を控えめにする」ですが、その場その時に応じて自分の行動を考えることができるのは大事な事だと考えています。 例えば、社会生活における望ましい習慣や態度を身に付けることもこども園の目標であり、それは、友達と楽しく生活する中で決まりの大切さに気付き、守ろうとする態度が身についていくようにしていくわけですが、事務室での注意事項などは、そこがどんな役割のある場所なのか、どのような行動が優先される場所なのかを保育者が具体的に伝えることも必要です。普段から保育者がどのように事務室を使っているのかを見て感じとってくれていると思いますが、改めて伝えることも、今回の食事の中でねらいとしています。

そして食事時間を30分と設定することですが、これは緩やかに小学校生活のペースを感じてもらいというねらいがあります。小学校では30分で食事時間が終わるから、さあがんばってそれに慣れるように練習していきますよ!みたいなものではありません。例えば小学校の授業は時間が決まっており、その時間は授業に集中できるようになる必要がありますが、それは乳幼児期に同じ時間の集中ができるように練習をすればいいというものではありません。集中することの楽しさを十分に体験しておくことが大事で、そのためにも自分の好きなことに没頭する時間を保障することとか、他の人が集中するのを妨げることのないよう、多様な価値観を尊重できるように様々な人との関わりを重ねることとか、もっと言えばぶつかり合いによる葛藤の経験なんかもそこにつながっていくことです。こども園での生活や遊びを通して、その時期その時期に必要な体験を積み重ねていくことで、卒園後、つまり小学校以降の生活で必要な力の基礎を培っていけるようにするのが、あさりこども園の基本スタンスです。そして、小学校入学まで数ヶ月といった、小学校に対しての期待も少しずつ高まってきているこの時期に、小学校生活のことを少しずつ感じられるようにしていこうと考え、そのための1つの取り組みとして事務室での食事があるという捉え方です。

この食事会は年明けにも実施する予定です。今回とは違った姿も見られるはずなので、今からそのときが楽しみです。

2017年12月4日

自己肯定感はどのように育つのか

島根県保育協議会で発行している広報誌に書いたものです。講演会の内容をすごーく大雑把にまとめただけのものですが。


「子育てハッピーアドバイス」の著者である明橋大二氏の講演では、子どもの自己肯定感を育むことがいかに大切か、そしてそのためにも保護者の自己肯定感を育むことが大切だということを、丁寧に話してくださいました。その概要を紹介します。


○自己肯定感はどのように育つのか

自分のいいところを見つけてもらい、褒めてもらう。それで自己肯定感は育っていくけど、それだけではない。自分のだめなところ、悪いところ、あるいはマイナスの感情もひっくるめて受け止めてもらえる。それで初めて育つのが自己肯定感。

○子どもの心は「依存」と「自立」を行ったり来たりして成長していく

依存とは甘えのこと、自立とは反抗のこと。この2つを行ったり来たりしながら大きくなるのが子ども。親に十分に依存して甘え、不自由さを感じるようになると自由を求めて(これが意欲)自立し始める。自立して自由になると、今度は不安な気持ちが生まれ、また依存を求めるようになる。そこで安心感を得るとまた自由を求めて…といったように、行ったり来たりしながら大きくなるのが子どもの心。

大事なことは、依存と自立の行ったり来たりは子どものペースでないといけないこと。子どもが「お母さん」と寄ってきたときは助ける。自分でやると言ったときは「じゃ、やってごらん」とさせてやる。子どものペースで行ったり来たりできることが大事。

自立の基礎となるのは意欲。意欲は安心感から出てくるもので、安心感は十分に依存し甘えることで得られる。つまり、甘えない人が自立するのではなく、十分に甘えて安心感をもらった人が自立するということ。

依存(甘え)と自立(反抗)を行ったり来たりしながら育つことを考えると、子どもが反抗し始めるのは依存して甘えて安心感を十分に得られたから。基本的にはそれまでの子育てが間違ってなかったことの証拠。

○親への対応

今の子どももそうだけど、親も自己肯定感が低い。自分の否を認めず、全部保育園のせいにしてくるプライドの高い親もいるが、それは自己肯定感が低いから。自己肯定感の高い人は自分の否を認めることができるし、自分の至らないところを受け入れることができるもの。そんな親が子どもを褒められるようになるためには、まず親が周りから褒めてもらう必要がある。

子どもの支援、子育ての目標は、子どもの自己肯定感を育むこと。では子育て支援とは何かというと、親、特にお母さんの自己肯定感を育むことにつきる。親の自己肯定感が育ってくれば、子どもの自己肯定感を育てられるようになる。

そのためにも親の話をしっかり聞き、親の気持ちを言葉にしてかけ、できているところを十分に認めることが大事。親を変えようとは思わないこと。親が変われば子が変わるというのは事実だけど、あなたが変わらなければということは、今のあなたはだめだという否定のメッセージ。心配な親ほど、1%でもいいのでできているところを見つけて褒め、認めていく。そうすると信頼関係ができてくる。そこで初めてアドバイスができるようになる。

○最後に

最後に、「まずは大人同士が互いのことを褒め合い、認め合うことが大事で、それができて初めて子どもたちのことを褒められるようになる。大人も子どもも互いのいいところを見つけて褒め合い、認め合う。互いの辛さ痛み悲しみに気づきあって、支え合う。そういう関わりを作っていってもらいたい。」と結ばれました。

2017年12月1日

No.521 自己育成と自己管理

今週の月曜日から園庭でおもしろい遊びが行われていたようです。子どもたち曰く「舗装工事」だそうです。ビールケースを広げて作業場を作り、バケツや一輪車で砂を運搬し、三輪車なども作業車として登場していて、とってもダイナミックな遊びです。「きけん」と書かれた手作り看板も貼られ、その周辺にいる子どもたちはちゃんとルールを守って遊んでいたようです。どこかで工事現場を目にしたのか、それとも園舎工事の様子を見ていて思いついたのか、とにかく楽しそうに遊んでいるのが写真からも伝わってきます。





鷲田清一さんが、建築家の安藤忠雄さんの言葉を紹介されていました。


今の子供たちの最大の不幸は、日常に自分たちの意思で何かが出来る、余白の時間と場所を持てないことだ。安藤忠雄

自立心を育もうと言いながら、大人たちは保護という名目で、危なそうなものを駆除して回る。そのことで子供たちは緊張感も工夫の喜びも経験できなくなった。安全と経済一辺倒の戦後社会が、子供たちから自己育成と自己管理の機会、つまりは「放課後」と「空き地」を奪ってきたと、建築家は憂う。著書「建築家 安藤忠雄」から。(鷲田清一)


自立とは、何でも自分でできるようになることではありません。自分でできることは自分でする、自分だけではできないことは人に助けを求めることができる、これが自立です。そのためには自分でできることを知る必要がありますし、できないときは他者に助けを求め、ちゃんと助けてもらう経験を、生活や遊びの中で積み重ねていくことが大事です。そのためには自分の意思で行動することや、集団の中で様々な関わりを経験することが必要です。あさりこども園の子どもたちは、自分たちの意思で様々な選択をし、失敗の可能性が常にある緊張感の中で、それを楽しみながら創意工夫をして遊んでいます。そのように活動してくれることを願い、そのための環境を用意しているので当たり前かもしれませんが、自分たちの意思で○○を選ぶといった場面は、こども園の生活のあちこちにあります。その中で、自分でできることは何か、助けを必要とすることは何かをしっかりと学んでくれています。

自分の意思で行動を決定し、失敗も経験しながらできることを増やしていくこと(自己育成)。自分でできることは自分で、自分だけではできないことは人に助けを求めることができる(自己管理)。昔は当たり前にあったこのような機会を、意識して作っていかないといけないのが今の時代、これからの時代なんでしょうね。