2010年7月30日

No.154 競争よりも協力を

もうずいぶん前のことのように思ってしまいますが、7月11日までサッカーのワールドカップが行われていました。今回の日本代表の活躍にはずいぶん感動させられましたが、先日ある新聞に、エッセイストの小澤征良さんが日本代表についてこんなエッセイを書かれていました。

『代表チームは息を飲んで目を見張るほど、ぐんと強くなっていた。~略~一番目についたのは、選手一人一人が個人プレイよりも、チームと力を合わせることをまず第一にしている、その姿勢だ。そうすることでチームはより濃密になり、粘り強い、一つの生き物となった。選手たちに(いい意味で)自己中心的なところが無い、ということ。どこかに穴が開くと、必ず誰かがそこをカバーしている。自分のために、ではなくチームのために。』

最近は、自分さえよければいい、他を蹴落としてでも自分が得をしたい、といった考えが珍しいことではなくなっています。受験などの競争が早期教育というブーム?を生み出したりし、子どもたちに競争を強いることが少なからず見られるようにもなっています。こうした競争は子どもたちの望んでいるものではないと思いますし、何より人類が現在まで存続してきたのは互いに協力し合ってきたからだと思います。

とは言っても、世の中にはどうしても競争の要素はあります。でも私はこう考えます。例えば企業同士の競争があるとき、相手企業に勝つためにはまず自分たちの企業内での協力やチームワークによって、自分たちの仕事の質なりを上げていかなければいけないはずです。そうした協力がない状態で相手企業との競争に勝つなんてことは無理だと思うのです。競争のためにも協力は必要です。いろんな見方はあると思いますが、今回のワールドカップでの日本代表は、まさに『選手一人一人が自分の役割を自覚して協力し合い、チームのために貢献することの大切さ』を教えてくれていたと、私は思っています。

私たちは保育を行う上で「共生」と「貢献」ということを大切にしています。少子時代だからこそ子ども同士の関係を築くことが不可欠で、そのためにも競争ではなく協力することの大切さを伝えたいと考えます。一人ひとりの違いを認め、「共に生きる」こと、「互いに貢献し合う」ことを、子どもたちと共に実感することの出来る場でありたいと思っています。

2010年7月23日

No.153 夏祭りとテーマの話

いよいよ明日は夏祭りです。たくさんの方に支えられて毎年開催することができていることに感謝しています。今年の保育のテーマは「自分たちの住んでいるところを知る」で、夏祭りもこのテーマに沿って工夫しながら計画してきました。このテーマには、子どもたちが所属感を持ち足元を固めることで、安定して自発的に活動できるようになってもらいたいという思いがあります。また、地域の人とつながることで社会を知ってもらいたいという思いもあります。

今年のあさり保育所には裏のテーマもあって、「小学校以降の学びへどうつないでいくか」という大きな課題にもあらためて取り組んでいます。以前からお伝えしているように、小学校の勉強の先取りではなく、小学校に入ってから後伸びする力をつけるためにはどのような体験が必要なのか、そんなことを研究しています。その取り組みの中で1,2年生の教科書や学習指導要領を読んだりもしているのですが、そこでこんな発見がありました。

小学校で1,2年生は「生活科」という授業があります。これは、この先の学ぶことになる地理、歴史、政治、経済、社会、倫理などの基礎になるものです。その生活科の目標の中にはこんなことが書かれています。

「自分たちの生活は地域の人々や様々な場所とかかわっていることが分かり、それらに親しみをもち、人々と適切に接することや安全に生活することができるようにする。」「多くの人々の支えにより自分が大きくなったこと、自分でできるようになったこと、役割が増えたことなどが分かり、これまでの生活や成長を支えてくれた人々に感謝の気持ちをもつとともに、これからの成長への願いをもって、意欲的に生活することができるようにする。」

私たちが「地域を知る」活動の中で特に大切にしたいのは、人とのつながりです。かき氷のシロップ作りなども、今年は出来る限り子どもたちと果実をとりに出かけ、その場所だけでなくその場所を支えている人とも関わるようにしてきました。上の文章を読んでいると、こうした活動が生活科の目標とも深くつながっていくことが分かります。地域の様々な人とつながることで、自分はいろいろな人たちの中で生きていることに気づき、それが自分を知ることや主体的に活動することにつながっていってほしいと思います。テーマに対しての取り組みにも、夏祭りを通して触れてもらえればと思っています。

2010年7月16日

No.152 お昼寝とゴーヤの話

保育所にはお昼に休息の時間があり、ほとんどの子はお昼寝をします。その中で、ぞう組さんの一部はお昼寝をせずに絵本ゾーンに残って絵本を読んで過ごします。14時頃になると、きりん組さんで十分に休息できたと思う子が、絵本ゾーンで過ごしている集団に加わります。他のクラスでも、早く目覚めてしまった子は無理に寝ることはありません。これが今のあさり保育所のお昼の風景です。

お昼寝に関しては、なかなか寝られない子とよく寝る子がいる中でどのようなあり方がいいのか、以前から職員間で話し合いを繰り返していました。子どもたちの姿を見ていると、子どもによってはそれほど昼間の睡眠時間が必要でない子もいますし、また、その日の昼間の活動によって休息の量や質は変わってくることが分かります。そんなことから、子ども自身が休息が必要かどうかを判断し、どうするかを考えるやり方にしています。寝ることも寝ないことも自由なので、ぞう組さんでも「今日は寝る」と言って寝る子もいます。

子どもの睡眠の必要性は、決して年齢で決まるわけではなく、個人差や活動量によって変わってきます。最近の研究では、2歳児でも約2割はお昼寝をしなくてもいい子がいて、5歳児でも約2割はお昼寝が必要な子がいるということが分かっています。また、幼稚園と保育園を1つにしようという国の議論が高まるにつれて、お昼寝をしない幼稚園文化とお昼寝をしている保育園文化をどうすり合わせるのかという話題が増えてきています。そうなると、全員寝ることにするか寝ないことにするかとか、年長さんは寝る必要がないといった話になることが多いのですが、そうではなく、子どもの判断や選択を尊重しようといった考え方がもう少し出てきてもいいのでは、と思っています。

話はがらりと変わりますが、畑の横の砂場でゴーヤがぐんぐん育っています。園庭には日陰が少ないため何とかしたいと常々思っていて、今年はいろいろと挑戦しました(スタードームもそこに加わります)。その取り組みの1つがゴーヤによる緑のカーテンです。見た目にもずいぶん涼しく感じられ、梅雨明け以降には少しは威力を発揮してくれると思っています。当然できたゴーヤはみんなで食べようと思いますが、食べ切れない分は保護者のみなさんにおすそ分け出来ればと考えていますので、お好きな方はチェックしてみてください。

2010年7月9日

No.151 スタードームの話とプール遊びの話

4日(日)にスタードームが完成しました(子どもたちにはまだ秘密にしています)。保護者会の提案からスタートした「スタードーム作り」ですが、たくさんの方に協力していただき、大人が見てもわくわくするような素敵なドームが出来上がりました。本当にありがとうございました。出来上がったものが素晴らしいということもありますが、参加された方が本当に楽しそうに作業されている姿やそこに込められた思いが子どもたちに伝わることは、子どもたちの育ちに大きな影響を与えるんだろうと思いました。

ここでも紹介したことのある“学力の高いフィンランド”ですが、その理由についてフィンランド政府が説明していることにこんなことがあります。
「すべてのレベルが相互に作用し合い、協力している。また共通な理念を持っている。」「“皆で社会を築いていこう”という学習概念に拠っている。」
これを簡単に解釈すると、最初の言葉は『お互いの協力』です。それが次の言葉の『みんなで社会を築いていこう』という意識を支えることになります。保育園・学校と保護者が同じ価値観を持って、協力して子どもたちの育ちを見守っていこうという姿勢が高い学力につながっている、ということです。あさり保育所は、保育に対しての理解や様々な面での協力など、保護者のみなさんに支えられています。そのことをあらためて感じ、うれしく思っています。

話は変わりますが、今週火曜日からプール遊びが始まりました。プール遊びの取り組みは昨年度までと同様に、「水遊びは大好きだけど、顔に水がかかるのはちょっと…」という“かにグループ”、「顔に水がかかってもいいけど、でも潜ったりするのは苦手」という“さかなグループ”、「しっかり泳いで遊びたい」という“いるかグループ”の3つのグループから選択して取り組みます。今年はそれに加えて、プール遊びで挑戦したい目標を一人ひとりが立てることに取り組んでいます。目標を立てるためには自分自身を知らなければいけませんし、その目標が達成された時やできなかった時の感情に向き合うことは、自分の感情を理解していくためにとても大切なことです。自分の感情と向き合うことは、自分で自分のことを客観視することで、そこから感情をコントロールすることへつながっていきます。さらにそれは、他人の気持ちを考えることにもつながっていく大切なことです。このことについて、またどこかで触れたいと思いますが、とにかく今年のプールの取り組みも楽しみにしていてください。

2010年7月2日

No.150 安全基地があるからこそ

先週の土日に、ぞう組さんがさくら保育所のひまわり組さん(年長児)と一緒にお泊り保育を行ないました。いろいろ感じることはあったのですが、その中から1つだけ取り上げてみます。お泊まり保育は決まった流れがある中でいつも生活している友達と過ごすものではありますが、とはいっても初体験のため、日常の保育とは違って、実際にはどうなるんだろうといった不安が当然あったはずです。その中で、「どうなるか分からないこと」に向き合いながら丸1日過ごしたことは、子どもたちとって得るものの大きい体験だったと思います。

子どもは「どうなるか分からない」新しい体験に次々挑戦することで成長し、世界を広げ、自分を作り上げていきます。でも、そのためには「どうなるか分からない(不確実である)」ことだけではダメで、「分かっていること」「安心感があること」が同時になければいけません。その状態でこそ、自発的に新しいことに挑戦しようという意欲が湧いてくるからです。

これは親子の愛着関係でもよく言われることですが、例えばイギリスの心理学者ジョン・ボウルビィという人が「安全基地」という言葉で説明しています。『人間は生まれたときから新しいことに挑戦することで成長を遂げるわけだが、新しいことにチャレンジするには意欲が必要になる。その意欲を支えるのが「安全基地」。赤ちゃんが次々と探索活動をすることができるのは、自分のことを見てくれていて、必要なときにはいつでも助けてくれる、そんな親の存在=安全基地があるから。』といった内容です。これが愛着関係だと言っています。いつも見てくれているという安心感を子どもが感じていることが、不確実な未知の世界へ挑戦していく意欲を支えているわけです。

日曜日の朝、お迎えに来られた保護者の皆さんの表情から、我が子に対する思いが伝わってきました。皆さんが子どもの安全基地になっているからこそ、子どもたちはお泊り保育をやり切ることができたんだと、あらためて感じました。またぞう組以外の子も、安全基地があるからこそ普段の生活の中で次々と新しいことに挑戦できているんだということを、再確認することができました。見守られている安心感が子どもの自発的な活動を生み、その体験の積み重ねが世の中の不確実なことに対応していく力につながっていくことを、強く実感できた活動でした。