2014年12月26日

No.376 見守っていられるような子どもに

保育園は4月に始まるため1年の終わりは3月なのですが、12月の後半になると自然と今年を振り返る思考になっていくから不思議です。ということで、まだ区切りの時期ではないのですが、ここまでのことを振り返る中で考えたことを書くことにします。

最近はあさり保育園で行っている保育のことを「見守る保育」と表現する事があり、その考え方についても少しずつ説明させてもらっています。でも実際のところ、その意味をパッと理解するのって難しいと思うんですよね。だからこそいろんな表現を工夫し、様々な形で伝えられないかと試行錯誤しているところです。「もくもくの日の思い」というポスターを作ったのもそうですし、運動会や発表会などを通しても保育の考え方を少しでも伝えるためにはどうすればいいかと工夫を重ねる日々です。

そしてこんな表現もできると学んだことがあります。それは『見守っていられるような子どもにしていく保育』という考え方です。例えば制作ゾーンにはハサミが置いてあっていつでも使えるようになっているのですが、それを好きなように使わせるのが「見守る」ことではなく、ケガをしないように、他人を傷つけたりしないように教え、その上でハサミを自由に扱って意欲的に制作活動を行えるような子どもにしていくこと。つまずいてしまうような段差がある場合も、(大きな危険がなければ)先回りして取り除くのではなく、子ども自身で段差を乗り越える力をつけていけるような体験を十分にさせてあげること。手を貸してほしいと訴えがあったときは必ずその思いに応えてあげることで困った時にはいつでも助けてもらえるという安心感を持ってもらい、その安心感を基盤に自分の力で新しいことに挑戦していくような子どもにしていくこと。そうしたことが私たちの目指す保育のカタチだと捉えてもらえばいいと思います。

「大人が何もしない保育」ではありません。最終的に子どもが自分で考え行動していけるようにすることを目指し、そのために必要な力を保育園の生活の中で身につけてもらえるように、関わり方や環境のあり方を常に考え実践していくことが私たちの大事な役割です。ではそのために十分なことができているか考えると、まだ課題はたくさんあるのが現状なんですよね。多分「課題は全て無くなった!」と言えるときは来ないと思います。子どもたちはみんな違っていて日々成長していきますし、社会も日々変わっています。その中で保育だけは変わる必要がないなんてあり得るわけもなく、日々新たな課題が出てきています。そんな課題に気づき、しっかりと向き合っていくことは、今後も変わることなく続けていきます。ということで来年もよろしくお願いします。

2014年12月23日

陽希さんにお会いしてきました

グレートトラバース 日本百名山ひと筆書きを見事踏破された田中陽希さんにお会いしてきました。今回の旅で感じたことや保育園の子どもたちと出会って感じたことを聞かせてもらうこと、そして保育園の子どもたち陽希さんの旅をどんな風に楽しんでいたかを伝えること。そんなことが目的でした。

以下は陽希さんとお話をした内容の一部です。





旅の途中で「あさり保育園へ来てもらえませんか?」と突然お願いしたんですが、すぐに「寄ってみよう」と思われましたか?

子どもが好きなので「寄らせてもらおう」と思いましたよ。ただ、事前に話があったわけではなく突然だったので、少し戸惑いはありましたが(笑)。





子どもたちに会って交流してもらいました。子どもたちの反応を見てどんなことを感じましたか?

子どもはすごく素直だなあと思いました。今の子どもたちはませているというか、そんなイメージを勝手に持っていたんですが(笑)。全然違ってましたね。テントを出しただけでそれをすぐに遊び道具にしてしまうし、見ていてすごくおもしろかったです。そしていろんな子がいることも分かりました。テントでずっと遊ぶ子やもいれば、すぐにやめて違うものに興味が移る子もいましたし、強く関心を持つ子がいれば、あまり関心を持たない子もいたり。本当にいろいろだと感じました。あさり保育園での様子をテレビで観たんですが、あの説明(旅の内容を伝えるシーン)では伝わらなかったなあと反省しました。伝え方って難しいですよね。伝わるところまでやりたかったなあという思いもあります。保育園にいたのは短い時間だったけど、関わることができてよかったと思っています。





「好奇心が強いから前に進むことができている」と話されていましたが、保育園に寄ってもらった後も好奇心を刺激されるものに出会いましたか?

たくさん出会いましたよ。例えば島根県では玉造温泉で。ちょうど橋を直している最中で、しかも左官アーティストが作業されていたんです。勾玉の形をした飾りが橋についていて、ジブリの作品を見ているようでした。





旅の途中から7枚、そしてゴール後に1枚、計8枚のハガキを送ってくれましたよね。1枚目のハガキが届いたときはすごく驚いたんです。そしてそれ以降、子どもたちもハガキが届くのをすごく楽しみに待ってました。「陽希さんからのハガキ、きた?」と毎日聞いてくるくらい(笑)。あのハガキを出そうと思ったきっかけは何かあったんですか?

子どもたちが自分の旅のコーナーで楽しんでくれているのを知り(『陽希さんコーナー』ができたとき、すぐに写真を送ってそのことを伝えていました。)、子どもたちにハガキでも楽しんでもらいたいと思って書き始めました。そうそう、ほんとは四国にいるときから書こうと思ったんです。でも移動の連続で書く時間がなかなかとれなくて。奈良県に渡ったときに少し時間ができたので、ようやく書くことができました。





応援事務局のハタケスタジオのスタッフの方にお願いをして、子どもたちからのゴールのお祝いメダルを届けてもらいました。そのことにはすごく感謝しています。ゴールされたときの写真を見て、陽希さんに無事届いたことがわかり、みんなで大喜びしました。

応援事務局のハタケスタジオの方がゴールを予定していた日には間に合わないことがわかっていたので、事前にノースフェイスの方に託していたようです。その方から受け取りました。メダルはとてもうれしかったです!





ゴールゲートの寄せ書きも書かせてもらいました。「いちからひゃくまでがんばったね」は子どもたちが考えた言葉なんですよ。

子どもたちの素直な言葉でとてもよかったです!子どもたちの記憶に残っていたことが何よりもうれしかったですね。





ハガキでもたくさんのメッセージを書いてもらっていましたが、改めて子どもたちに何か一言お願いできませんか?

よく笑って、よく泣いて、よく叫んで、よく遊んで、よく楽しんでほしいですね(笑)。今思ったこと、感じたことを素直に受け止めてほしいです。そして失敗してもいいから、思った通りに、感じた通りに行動してもらいたいですね。



そして「内緒の話ですよ(笑)」と教えてもらったのが、保育園で食べてもらったおにぎりのこと。その日のおやつのおにぎりは梅干しおにぎりだったんですが、実は陽希さん、梅干しがニガテだったようです。でも子どもたちが『美味しいよ』と勧めてくるし、みんなの前で好き嫌いを言うのも…と思い、食べさせてもらいました、と。





その他にも、旅の中で楽しかったことや、死を覚悟するほど大変だったことなど、たくさんのお話を聞かせてもらいました。特に興味をもったのが「歩く速さ」について。

今回の旅はいろんな事情で急がないといけない場面がたくさんあり、気の向くままに寄り道をしたりはできなかったし、夜も前に進まなければいけないこともあって、しっかり見ることができなかった土地もあったとのこと。歩くスピードでその土地に触れることで生まれる出会いや発見はあるはずで、それを十分に体験することができなかったのが残念だったと話されました。宿場町なんかも残っていて、それがだいたい20〜40kmおきにあるし、峠の前や後にもちゃんとあり、町も歩く速さや歩ける距離に会わせて出来ていたんだなあと感じました、とも。「歩く速度」も大事にしたいと、過酷な旅を体験されたからこそ強く感じておられるんだろうなあと思いました。

技術が進歩して移動なんかも速く、遠くに、楽に行けるようになって得たものは確かにたくさんありました。でもその影で失ったものもたくさんあるはずです。普段はあまり意識しないその失ったものについて、日本百名山を人力のみでつないだ今回の旅を応援することを通して、無意識のうちに考えさせられていた気もします。

陽希さんとのお話はこれ以外にもたくさんあったんですが、とても全部は書き切れないのでこれくらいにしておきます。

今回お会いするにあたって何か島根のものを届けようといろいろと考えました。そんな時に思い出したのが石州瓦。陽希さんが保育園に来られたとき、「この辺の瓦は何故赤いんですか?」と石州瓦の色に非常に興味を持っておられました。その時は答えられなかったので、「なぜ石州瓦は赤なのか?」を今回はちゃんと説明させてもらい、その石州瓦の小さいものをお渡ししてきました。「あー、これがあのとき瓦ですかー!懐かしいなあ(笑)」と喜んでもらえました。





2014年12月19日

No.375 連絡帳に書かれていたことから考えました

少し前のことですが、Tくんの連絡帳に昨年度あさり保育園を卒園したお姉ちゃんの話が書かれていました。その内容から考えさせられることがあったのでここで少し紹介させてもらいます。「帰りの車中でTくんの話を聞きながら、Rちゃん(姉)が『はぁ〜、なんだか保育園でいろいろやってたことを思い出しちゃった。バイキングとかやってたよね。』と気だるそうに言い出しました。『小学校でも似たようなことをやってるでしょ?』と聞くと、『えー?そう?バイキングの方が大変でしょ?お茶も入れるし。』と言い、今と昨年の給食の準備の違いをいろいろと言い出しました。バイキングの経験のあるうちの子は小学校の給食の準備を大変とも思っていないんだなあと感心しました。」という内容です。

保育園の生活を1つ1つ考えてみると、子どもたちは当たり前のようにやっていますが結構大変なことがあると思っています。例えばRちゃんの言っていたぞう・きりん・くま組が担当している当番の仕事を書き出してみます。

○朝のお集まりで今日のメニューを伝える。
○食事の準備をする。(テーブルを拭く、コップを出してお茶を入れる、食器やおかずの用意をする、おかずの量を聞いて入れてあげる、いただきますのあいさつをする)
○掃除をする。(椅子を拭いてテラスへ運ぶ、下拭きをする、テーブルを運ぶ、雑巾を洗って干す)
○おやつの準備をする。(椅子をテラスから運び入れる、テーブルを拭く)
○夕方のおあつまりで明日の当番の人を伝える。


当番の子は複数いるのですが、食事については40人分の準備をしなければいけないので結構大変な仕事です。既に習慣になっていることや、当番ということでいつも以上に張り切っていることがあるとはいえ、よくやってくれているなあと感心します。こんな経験をしている子どもたちも小学校へ行ったら一番小さな生徒になるので、最初のうちは6年生が給食の準備を手伝ってくれたりすることもあるようです。「保育園では自分たちで食事の準備をしているので、小学校でも自分たちでできるはずですよ。」と保育園での姿を小学校へ具体的に伝えることで、1年生だけで準備をするように変わっていったという話も聞いています。保育園と小学校の生活が切れ目なく続いていくように、保育園でつけた力をもとにして更に力をつけていけるように、子どもたちの姿を小学校へ伝えていくことは今後も丁寧に行わなければと思わせてもらった連絡帳でした。

2014年12月12日

No.374 ただ、ものすごく好奇心が強いだけ

年長児を対象とした科学の実験を楽しむ「科学の日」を設けています。不定期開催のため実施した回数はあまり多くありませんが、子どもたちの反応はかなり良く、楽しんで取り組んでいます。どんな実験を行っているかというと、「ゆで卵を酢に漬けておくとどうなるか?」「勝手に動き出すティッシュペーパー」などです。この取り組みの目的は子どもたちに知識を植え付けることではなく、「何故こんなことになるんだろう?」「不思議だなあ」と感じてもらうことです。なのでその現象についての解説は特にしませんし、子どもたちから「じゃあ○○にしてみたらどうなるんだろう?」と疑問や提案が出てくると、それを試してみたりもしています。なぜ科学なのかというと、科学は物事を論理的に考えることにつながりますし、何より物事に対する好奇心につながります。好奇心は学びや行動の意欲を持つためには欠かせないものなので、科学の取り組みは細々とでも継続させていきたいと考えています。

好奇心については何度も書いてきていますが、とても大事なものなんですよね。小学校の学習にどうつなげていくかが乳幼児期の教育のポイントだと認識しているんですが、例えば字が書けるようになるためには身の周りにたくさんある文字を見て「なんて読むんだろう?」と興味を持つことや、「自分も字を書いてみたい!」と思うことがまずは大事です。物事に対しての好奇心があるからこそ知りたい!やってみたい!と思い、それが行動へとつながっていくわけです。でも、知りたい!とかやってみたい!といった思いは他人が持たせてくれるものではなく、自分で生み出していくしかありません。その源となるのが好奇心なんですよね。

子どもは強い好奇心を持っています。その好奇心があるからこそ、目の前にあるものを何でも触ってみたりしますし、他人の行動をじっと見て真似したりします。そうしたことを繰り返す中で新しい力を獲得し、発達していきます。そんな大事な好奇心ですが、私たち大人が奪ってしまってはいないだろうかと点検することも大事だと思います。例えば子どもから「これなあに?」と質問されたとき「○○だよ」とつい答えてしまったりするんですが、そうすると「ふーん」で終わってしまい興味は広がりにくいでしょう。答えてしまいそうになるのを抑え、「何だろうね、不思議なものだね」とか「友だちと一緒に調べてみたら」とか、より興味が増すような答え方を考えていくことも私たち大人の役目だと思います。一緒になって不思議さを感じ、それを一緒に楽しめると更にいいんでしょうね。

最後にアインシュタインの言葉を紹介します。好きな言葉です。

私には特別な才能などない。ただ、ものすごく好奇心が強いだけだ。


2014年12月4日

No.373 見せることから学ぶ

気がつけば12月。あと少しで平成26年が終わります。年をとると1年が早く感じられるようになるとよく言いますが、どうやらあれは本当ですね。困ったもんです。

先週の土曜日に発表会が終わりました。たくさんの方に来ていただいたことを感謝しています。子どもたちの成長した姿を見てもらうことが目的なので、みなさんに来ていただいてこそ成り立つ行事です。ありがとうございます。今回は初めての試みとして、出し物と出し物の間に幕を閉めることをやめ、舞台設営や舞台への出入りも全て見てもらう形をとりました。舞台設営も出し物の1つと考えるとテーマも意識します。和というテーマに沿っておこなうために、主に舞台設営に当たった保育者や手伝っていただいた役員さんの衣装を考えさせてもらいました。姿を見られながら準備を行うのはなかなか大変だったでしょうが、そんなことを含めて楽しんでもらっていたんじゃないかと勝手に想像しています。



そして子どもたちの舞台への出入りですが、そこでも子どもの発達を見ることができました。保育者とともに登場する子がいれば、子どもたち自身で登場し自分の場所へさっと移動して出番を待つ子もいたり。また舞台の袖で控えている姿も様々でした。「感じたことや体験したことを出し物の中でどう表現するか」から発達が見えるのはもちろんですが、舞台への出入りの姿からも発達を見ることができるのでおもしろいですね。みなさんからはどのように見えていたでしょうか?今回しっかりと見てもらった幕間ですが、これは次の出し物への期待を感じさせる場でもあります。その点から考えると工夫する余地はまだあると思っています。幕間から感じられる期待感がもっと増すようにするためにはどうすればいいか、新たな課題が見つかりました。

最後に「見せる」ことについて。発表会では幕間まで見てもらいましたが、あさり保育園では行事や特別な取り組みだけなく、日々の保育についてもそのまま見せたいと考えています。今の保育園の状態に満足しているから、ではありません。理由はむしろ逆で、十分でないところがたくさんあり、まだまだ満足できていないからこそ、それを改善していくためにも見せていかなければいけないと思っています。閉じると楽かもしれませんが、そこで進歩は止まります。保護者のみなさんや地域の方々に対してよりオープンにし、「見せる」ことから学ぶ風土を更に育んでいきます。