2008年9月12日

No.62 子どもは何のために力を身につけるのか①

先日、奈良女子大で発達心理学を教えておられる浜田寿美男教授のお話を聞く機会がありました。浜田さんは「学校で学ぶことは結局学校でのみ試されるものになっていて、そこでつけた力を社会や実生活で発揮するための教育になっていない」と今の教育のあり方に危機感を感じておられます。浜田さんのお話の中で印象的なものがあったので書いてみます。

14、5年前の話ですが、浜田さんの娘さんが小学5年生のとき、家庭科で卵の黄身の盛り上がり方から新鮮度を見分ける授業があり、後日その内容についてのテストがあったそうです。家庭科のテストなので生活に即したストーリーのある内容で、「花子さんは卵料理を作ろうと卵を2つ割りました。(黄身がこんもりと盛り上がっているAと、黄身がほとんど盛り上がっていないBの図があって)あなたはAとBどちらの卵を使いますか」という問題です。ほとんどの生徒は「A」と答えましたが、浜田さんの娘さん1人だけ「B」と答えて不正解となりました。浜田さんご夫婦は仕事で遅くなることが多かったので、娘さんは夕食を自分で作ったりする機会が多い生活だったため、実体験に置き換えて「古いBから使う」と答えたようです。

皆さんの答えはどうでしょうか。実際の生活では当然「古いBから使う」でしょうし、「2つ割って1つだけ使うなんて有り得ないから両方使う」など、いろいろありそうです。実際の生活では新しいAは使って古いBは使わないということは恐らくないでしょう。もちろん卵の新鮮度の見分け方は知っている方がいいと思います。ただ考えなければいけないのは、「どちらを使いますか」という問題を「どちらが新鮮ですか」とほとんどの生徒が自分で読み替えてしまっているところです。どう生活に生かすかではなく、テストとして何が正解かと考えてしまっています。『学校で習うことは生活やその後の社会で使っていくものであるはずなのに、身につけた力や知識はテストでしか生かされない状態になってしまっているのではないか』と浜田さんは心配しておられました。

この話は小学校以降の話で、テストの無い保育所時代の子どもたちには関係ないようにも思えますが、私は無関係ではないと考えています。何のために子どもたちは力を身につけるのか?このことはきちんと押さえておかなければいけないと思っています。次回はこの続きを書かせてもらいます。

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