2009年3月19日

No.87 明後日は卒園式

心理学者の河合隼雄さんの「こころの処方箋」という本に、こんな話が書かれていました。

『幼稚園の子どもで言葉がよく話せないということで、母親がその子を連れて相談に来られた。知能が別に劣っているわけでもないのに、言葉が極端におくれている。よく話を聞いてみると、その母親は、子どもを「自立」させることが大切だと思い、できる限り自分から離すようにして子どもを育てたとのことである。夜寝るときもできるだけ添寝をしないようにして、一人で寝かせるようにすると、はじめのうちは泣いていたが、だんだん泣かなくなり、一人でさっと寝にゆくようになったので、親戚の人たちからも感心されていた、というのである。

このようなとき、その子の「自立」は見せかけだけのものである。親の強さに押されて、辛抱して一人で行動しているだけで、それは本来的な自立ではなく、そのために言葉の障害などが生じてきている。このときは、そのことをよく説明して、母親が子どもの接近を許すと、今までの分を取り返すほどに甘えてきて、それを経過するなかで、言葉も急激に進歩して、普通の子たちに追いついてきたのである。』

私たちは「子どもたちをいかに自立させるか」というテーマを持って保育を行っています。保護者の皆さんも、おそらく同じような思いで子育てをしておられるのではないでしょうか。では何をもって自立したと考えるかというと、辞書では「他の助けや支配なしに自分一人の力で物事を行うこと。」

とありますが、それだけではないように思います。というのも、私たち人間は誰かに依存せずに一人で生きていくことはできないからです。自分の力で生きていくスキルを身につけるのは当然大事なことですが、依存を完全に排除するのではなく、必要な依存を受け入れ、自分がどれほど依存しているかを自覚し感謝することが、真の意味での「自立」といえるのではないでしょうか。

明後日21日は卒園式です。一緒に過ごした子どもたちが、これから先それぞれの生き方をしていく中で、他の人と関わることを大切にした「自立」を目指して欲しいと思います。そして、どの子も自分らしさを発揮し、自分がもっているものを他の人に貢献する力に育てていって欲しいと思います。

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