最近、「おんぶ」という行為が子どもにとって大きな意味がある、という話を何度も聞く機会がありました。この「おんぶ」は、実は日本の特徴的な行動だったようで、江戸時代に日本にやってきたアメリカやヨーロッパの知識人は、おんぶする母親や父親、年長の兄弟を見て、おんぶの優れた効用に気づいて感激し、高く評価しています。スキンシップという面は当然ありますが、それ以外の効用について次のように記録を残しています。「日本の赤ん坊はおんぶされながら、あらゆる事柄を目にし、ともにし、農作業、凧あげ、買い物、料理、井戸端会議、洗濯など、身の回りで起こるあらゆることに参加する。彼らが4つか5つまで成長するや否や、歓びと混じりあった格別の重々しさと世間知を身につけるのは、たぶんそのせいなのだ。」
おんぶと抱っこの大きな違いに、両手が自由に使えるかどうかということがあります。そのため、抱っこをしている人はできることが制限されてしまいますが、おんぶだと制限はあまりありません。ですからおんぶされた子は、おんぶしている人と同じ視点でいろんな社会を見たり触れたりすることができるというわけです。このように子どもたちが他の人がするのを見ることは、社会性の発達の中で重要な役割をしていたのではないかということが、最近発達心理学の中で重要視されてきているそうです。ちなみにこの行動を「共同注視」と言うそうですが、おんぶにそのような効果があったのであろうという江戸時代の外国人からの指摘は、とても面白いと思います。
最近は、赤ちゃんをおんぶしながら何かをするということはずいぶん減ってきているようですが、社会に触れる大事な機会と考えると、見直してみる価値はあると思います。そして、おんぶをされながら日常生活を共に見ること以外にも、社会は様々な人や役割によって成り立っていることを見る機会を多く持つことも重要なことで、見直す必要があると思っています。例えば私が子どもの頃は、畳屋さんが畳を替えに来たり、大工さんが修理をしに来たりと、家にいながらにして様々な職業の人を見ることができていました。こうしたことが今はずいぶん減ってしまったように思います。子どもたちが社会に出たときに、それぞれの持つ役割を発揮することで社会に貢献していけるようになるためにも、「わかる」「できる」は別として、私たちが見ている社会を共に見る機会をどう用意していくかということについて、もっと考えていこうと思っています。
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