2008年5月30日

No.47 子どもは愛される権利をもっている

「子どもの権利条約」というものがあります。1989年11月20日に国連総会において採択され、日本では1994年にこの条約を承認されたのですが、大切なものであるのにも関わらず、私はこの仕事に就くまでこの条約を知りませんでした。なぜこんなことを書いているかというと、この「子どもの権利条約」の理念に大きな影響を与えたヤヌシュ・コルチャックという人の言葉を、ある業者さんから紹介されたからです。読んでハッとさせられるものもありましたし、子どもに関わる私たちはこの言葉を読んで自分を振り返ることも必要なのではないかと感じました。「子どもの権利条約」の内容はコルチャック氏の言葉とほとんど変わらない部分が多いので、今回はコルチャック氏の言葉を紹介します。

○子どもは愛される権利をもっている。自分の子だけでなく、他人の子どもも愛しなさい。「愛」は必ずや返ってくる。
○子どもを1人の人間として尊重しなさい。子どもは「所有物」ではない。
○子どもは未来ではなく、今現在を生きている人間である。十分に遊ばせなさい。
○子どもは宝くじではない。1人ひとりが彼自身であればよい。
○子どもも過ちを犯す。それは、子どもが大人より愚かだからではなく、人間だからだ。完全な子どもなどいない。
○子どもにも秘密を持つ権利がある。大切な、自分だけの世界を。
○子どもの持ち物や、お金を大切に。大人にとってつまらぬ物でも、持ち主にとっては大切な宝。
○子どもには、自分の教育を選ぶ権利がある。よく話を聞こう。
○子どもの悲しみを尊重しなさい。たとえそれが失ったオハジキ1つであっても、また死んだ小鳥のことであっても。
○子どもは不正に抗議する権利を持っている。圧制で苦しみ、戦争で苦しむのは子どもたちだから。
○子どもが自分たちの裁判所を持ち、お互いに裁き裁かれるべきである。大人もここで裁かれよう。
○子どもは幸福になる権利を持っている。子どもの幸福無しに、大人の幸福はあり得ない。

2008年5月23日

No.46 繰り返し繰り返し、根気よく繰り返し

子どもは保育所の生活の中でも社会のルールを学んでいきます。個人差はあるにしても、1歳後半から2歳前後になってくると自分でやりたがる自発性が顕著にみられるようになり、やっていいこととやってはいけないことを繰り返しの中で生活習慣として覚えていくようになります。3歳近くになってくると何がよくて何がよくないのか、善悪の判断をその都度覚えなくてはならない場面がたくさんでてきます。

しかし皆さんもよくご存知のように、そう簡単に社会のルールを守ることが身につくわけではありません。保育所でも「どうして友達同士でうまく譲り合いができないんだろう?」「この前まではこのルールを守れていたのに何故?」という場面にたびたび出くわします。その都度職員は頭を抱えながら対応を検討しあうのですが、あっさりと答えの出る課題ではないので、悩みはどんどん深くなります。このことは子どもが育っていく過程で必ず直面する課題であるため、毎年のように、そして毎日のように、私たちは向き合っていかなければいけません。だからこそこの大事な課題に対しては、常に議論しあって丁寧にぶつかっていきたいと考えています。

心がけることは「繰り返し繰り返し」です。一度や二度子どもに話したからといって、すぐにできるようにはなりません。根気よく繰り返し、適切な行動や方法を、こうすればいいんだよ、ということを伝えていくことです。やりたいという欲求と守らなければならないルールのバランスをとれるような体験の積み重ねが大切だと思っています。

そしてもう1つ、やはり大切なのは「子どもを信じること」だと思います。今は見えない子どもの力や可能性を信じて結果を焦らずに待つことが、子どもの内面で大きな意志が膨らむことにつながっていくと思います。子どもは大人ではありません。社会のルールについてまだ考えられないからこそ、子どもです。言われたことをすぐに理解して行動に表せないからこそ、子どもです。自分のことがやっとできるようになったばかりで他人の気持ちを思ってうまく関われないからこそ、子どもです。そんな子どもたちを焦らずに待つことができているか。自分自身に問いかけながら、こんなことを書いてみました。

2008年5月16日

No.45 今と昔の違い②

先週は今と昔の家庭を比べて「子育て支援」や「一時保育」が今必要とされている背景を考えてみました。今回は、家庭と保育所の違いから考えてみます

今の家庭になくて保育所にはあるものと言えば、たくさんの子どもです。子ども同士の関係が豊かであることです。家庭や地域には子ども集団が減りましたが、保育所にはそれがあります。これがとても貴重な時代になりました。子どもの成長には子ども同士の関わりが必要です。子ども同士の体験がほとんどできていなかったために社会性を身につけていないということが、今の若者の問題になってきています。幼児期に子ども同士でけんかしたり、交渉したり、協同して遊んだりする体験が少なくなってしまいました。そんな時代だからこそ、子どもにとって保育所での体験はますます貴重になってきていると思います。

先週書いたことも踏まえて考えていくと、そもそも子育ては親と子どもだけではうまくいくものではなく、親には大家族のようなサポートが必要だったのではないでしょうか。その大家族がなくなってきた今、地域の子育て支援の仕組みが必要であり、また子どもにとっては保育所のような集団の場所が必要だと思います。あさり保育所の「子育て支援」や「一時保育」を利用された方の人数を見ても、今の時代には必要な活動だと実感しています。親が安心して子育てができ、子どもにとっても好ましい子育てになっていく、そのためのサポートをあさり保育所では続けていきます。そんなわけなので、保護者のみなさんの周りに子育て支援(わくわく広場)や一時保育事業を知らない方がおられたら、ぜひ教えてあげてください。

2008年5月9日

No.44 今と昔の違い①

以前も紹介しましたが、あさり保育所では「子育て支援事業(わくわく広場)」と「一時保育事業」を行っています。今は県内でも全国でも非常に数多く行われているこの事業ですが、昔はほとんどなかったのではないかと思います。なぜこれらの事業が現在あちこちで行われているのか、その背景を考えてみたいと思います。

まず今の家族と昔の大家族を比べてみます。わかりやすいように大家族として「サザエさん」の一家を例にしてみます。ご存じのように、サザエさん(永遠の24歳)は専業主婦で働いていません。またサザエさんの子どものタラオちゃん(タラちゃん)は、いつまでたっても就園年齢にならないので幼稚園も登場しませんが、サザエさんは専業主婦なので保育園はこれからも登場しないでしょう。そのかわり、サザエさんが子育て不安に陥り、育児ノイローゼになったり子育てに自信をなくしたりするような場面は想像できません。

そうした話と無縁に思えるのは、タラちゃんの相手をする周りの子どもや大人がたくさんいるからです。父親のフグ田マスオさん(姓は磯野ではないので、養子ではなく二世帯同居家族)をはじめ、本当はおじさんとおばさんにあたるカツオとワカメ、それから祖父の波平と祖母のフネ、それにサザエさんのいとこにあたる波野ノリスケの子どもイクラちゃんなど、世話をする大人や遊び相手がたくさんいることが大きいと思います。公園で迷子になったら三河屋のサブちゃん(酒屋)が勝手口から連れてきてくれます。こんな大家族や地域社会が、サザエさんというアニメに「子育て支援」や「一時保育」などを必要としないのです。サザエさんの子育てを支えるもの、それは大家族です。タラちゃんという一人っ子を多様な社会関係(疑似兄弟関係や地域社会)が取りまき、間接的にサザエさんの子育てサポートをしていることがわかります。

これが全てではありませんが、昔はこのように「子育て支援事業」や「一時保育事業」がなくても家庭や地域社会が親の子育て(当然子どもの育ちも)を支えてくれていました。今はどうでしょうか。ずいぶんと社会は変わってしまいました。来週は家庭と保育所の違いにも触れながら、この続きを考えたいと思います。

2008年5月2日

No.43 子どもにも癒しは必要

今回は「癒し」について書いて見ます。「癒し」という言葉はストレスなどの多い大人の言葉のように思われますが、私は子どもにとっても必要なものだと思っています。子どもにとって集団での生活は発達の上で欠かせないものですが、その半面、集団での生活にストレス(大人のそれとは少し種類は違うでしょうが)を感じることもあるのではないでしょうか。

癒しの方法はいろいろありますが、保育所内のあちこちに置かれた「観葉植物」はその1つと考えています。二酸化炭素を吸収して酸素を排出するだけでなくマイナスイオンも発生してくれているようですが、そんな難しいことよりも、色の効果・成長を見る効果を期待しています。「緑」は目を休める色で、視覚的にもリラックスできます。温かみがあって落ち着くと感じる人が多いことも調査で分かっていますし、攻撃的な気持ちも抑えてくれるようです。また、新芽が出た、丈が伸びたなどといった植物が成長していく姿は、見ていて元気付けられます。いろいろ理由を書きましたが、一番シンプルな理由は、植物が元気よく育つ環境は子どもにとっても優しい環境であるはずだから、そんな環境にしたいという思いです。

「音」や「動き」の癒しも、もう少し取り入れたいと思っています。「音」については、玄関横の窓に「ウインドチャイム」というものを吊り下げていて、風に揺られては素敵なハーモニーを奏でてくれます。「動き」については、乳児室などに吊るしてあるモビールが風に揺られてゆっくりと動いています。こうした音が出るものや動きを楽しむものは、人の力、人の息、自然の風、自然の光の動きによって動くものが癒しを与えてくれます。人の気持ちに沿ってくれる音や動きがいいようです。

ストレスを感じている子どもに対しての保育者の関わりは当然重要ですが、上に書いたような環境による癒しも大切だと考えています。長い時間保育所で過ごす子どもたちにとって、十分に子ども同士で関わりながら遊びを楽しむためにも、大人と同じように「ほっと一息つける」様な空間は必要だと思っています。