今年の3月の話ですが、ある自治体が小学校教育を引き下げて、5歳の幼児に行うと発表したという報道がありました。例として出ていたのは、算数の前倒しとして「数字を幾つまで数えられるか」や、足し算・引き算を教えるといった内容です。こんなおかしなことを誰が考えるんだろうと思っていたのですが、小学校へ進んでいく子どもたちにとって、就学前の幼児期にどんな体験が必要なのかをきちんとおさえておく必要があるので、ここで取り上げてみます。
例えば算数。算数では足し算や引き算などの計算を行いますが、早くから数字を言えるようになったり計算に取り組めばいいのではなく、「集合」や「量」が数の背後にあることの感覚や知識を、子ども自らが経験することがまずはとても大切です。例えば、赤い色のブロックをしまうということを保育所では行っていますが、これは片づけのためだけではなく、集まりを感じさせる、集合の概念をつけるという意味もあります。ブロックの中の赤いブロックを選ぶ、「同質の仲間を選別して選びだす」ということが集合を知ることになります。これが数の背景にあることを知るのが大事で、これが欠けると計算が難しくなります。例えば「チューリップが3本、バラが3本あります。合わせて何本ですか?」という問題があるとします。チューリップとバラを一緒にして数えるという概念は、花という総合的な集合概念がなければできません。「庭には花が何本ありますか?」という問題は、花という概念がなければ分かりません。数を数えるとき、この集合の概念はすごく大切です。
そうした集合を知ることの次の段階には、集めた2つの仲間はどちらが多いか、あるいは同じか、と比べることが出てきます。保育所の生活の中でもそんな状況がよくあります。例えば子どもに画用紙を配ると、「足りない」「ちょうど足りた」「余った」の3様の結果が生じます。ぞう組さんとくま組さんが並んで手をつないだら、くま組さんが余ってしまいます。そんなことを数多く体験することが大切です。食事のときに「もっと」「多い」「少ない」と食べたい量を考えて伝える体験も大切です。こうしたことが、数の概念を理解するために幼児期に必要なことです。就学前の数学教育があるとしたら、こんなことを日常の中で体験することだと言ってもいいくらいです。
就学前に必要な体験について、私たちもまだまだ議論不足ではありますが、整理する意味も含めて、機会をみつけて続きを書いていく予定です。
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