2015年4月24日

No.392 ある研究の話から

今回はある研究の話から。20世紀の中頃に精神科医のルネ・スピッツによって行なわれた有名な研究があります。乳児の3つの環境での発達を調べたもので、1つは普通の家庭で育つ子ども、2つ目は様々な事情で母親から引き離されて乳児院で養育される例、3つ目は犯罪を犯した母親とともに暮らす母子更正施設の子どもたちです。この研究の結果、乳児院の子どもたちは死亡率が異様に高く、発育、発達もその他のグループと比べて明らかに遅れていたことが分かりました。この乳児院での養育方法は、現在とは考え方は違っていましたが当時としては理にかなったもので、方法に問題があったわけではなかったようです。ではどうして乳児院の子どもたちだけがそのような特徴的な結果となったのでしょうか?

家庭、乳児院、母子更正施設、それぞれで育てられた子どもたちに対するケアは、衛生面や栄養面では同じでした。十分な栄養、清潔な環境をどこも与えられていました。それなのに、乳児院で育てられた子どもたちだけが発育が遅れ、体重は減少し、死んでしまう子どもも大勢出てしまったのです。一般的な考えでは、生き物は栄養が十分で感染症にやられなければ死ぬことはないはずです。これは、明らかに生物学的な生存条件以外の何かの要素が働いていると考えられます。それは何かというと、コミュニケーションの量だったそうです。乳児院では乳児のケアをする人数が十分ではなく、乳児に対する話しかけやスキンシップが必要以上に行なわれなかったのです。つまり、母子間で行なわれる当たり前のコミュニケーションがない、社会的刺激がほとんどない状態の中では、子どもはうまく育っていかないということです。

なぜこの研究を紹介したかというと、この事実をみなさんにも知ってもらいたかったからです。おそらくみなさんは感覚的にコミュニケーションの大切さ、社会的な刺激の大切さを知っていると思います。子どもとのコミュニケーションが必要ないと思っている人はいないでしょうし、いろんな人との関わりが無駄なことだと思っている人もいないはずです。その感覚はこうした研究で裏付けられているので、どんどん信じてもらいたいと思います。それにしても衝撃的な結果ですね。さて最後に保育園の話になりますが、この研究は乳児が対象ですが、大きくなった子どもたちにも関係あることです。コミュニケーションや社会的刺激は子どもの発達や社会性の獲得を促していくために欠かすことのできないもので、保育者と子ども、子ども同士のコミュニケーションや関わりは特に大事にしていこうと思っています。そして保育園は保護者のみなさんも含めた大きな関わりの場です。保護者のみなさんの積極的な関わりも期待していますよ。

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