2012年9月27日

No.263 オロチの雲と運動会の話

運動会の予行練習をしているときのことです。ある子が空を見て「あっ、オロチの雲だ!」と叫びました。そばにいた他の子も「どの雲?あーーほんとだ!」「オロチだ!」と喜んでいます。写真がその時の空です。私も結構がんばって探してみたのですが、結局オロチは見えませんでした。子どもってすごいですね。自分の持っているイメージを自由に外の世界にも見ることができるのは、発想が自由で豊かな証拠だと思います。自分も子どもの頃はそんな風に周りのモノを見ていたはずなのに、いつの間にか出来なくなってしまっているなあと考えさせられました。大人の見方と子どもの見方、大人の世界と子どもの世界は決定的に違っていて、そのことを忘れて子どものことを考えている限り、理解できないことは多いんだろうともあらためて思わされた瞬間でした。



そんな姿を見ながらの予行練習だったからか、子どもたちは運動会のことだけを考えて活動していたのではないんだろうと感じた時間でもありました。もちろん当日のことを考えながらやっていた子もいたでしょう。他の子の様子を見ながら「よし、自分も!」と張り切って取り組んだ子ももちろんいたはずです。でも子どもたちの体験は全て運動会のためにあったわけではなく、そのときの雲にオロチを見て楽しんでいた子がいたり、友だちとの会話や関わりを楽しんでいたりと、運動会という活動を通して様々な学びにつながる体験をしていたはずです。そう考えると運動会の練習も、運動会当日の活動も、全てが日常の保育と無関係ではなく、つながっていることが大事だと再確認できました。

あさり保育園の運動会の目的の1つは「保育を厚くする」です。運動会が盛り上がればそれでいいというのではなく、そこまでの活動もわくわく感があり、普段の保育とつながった運動会であることを大事に活動してきました。世界をテーマとし、世界の国々をつないで聖火を運んでくることを目指した最初のリレーなんかもそうです。当日までにどれだけ期待感を持って活動してきたか、その活動と日々の生活がどうつながっているのか等を想像しながら運動会を見てもらうと、より楽しく見てもらえるんじゃないかと思っています。

2012年9月24日

一日限定のカフェ

今日は休憩時間に一日限定のcafeが開かれました。
カフェの名前は「cafe de 52」。



MさんとKさんが企画から準備、今日の運営まで行ってくれました。
出されたものは園庭のハーブで作ったハーブティーと
Kさん手作りのブランマンジェです。



何故このようなカフェが開かれたかというと、
実はこのブランマンジェが入っている瓶を
保育の中で使う必要があったというところから話は始まります。
あることをするためにこの瓶を用意したのですが、
せっかくなのでこの瓶をいろいろ活用してみようとになり、
じゃあ何かスイーツを作ってカフェでも開いて…と
あさり保育園のスタッフが得意とする展開になっていったわけです。

保育園でカフェを運営できたらいいなあという思いがあり、
今までもお迎えに来られた保護者の方々に
ハーブティーを飲んでもらう場を用意したりと、
どんな形がいいのかをいろいろと試してくれていました。
今回もその一環だったりします。
また休憩時間をよりリラックスできる場にできないかということを
MさんとKさんはあれこれ考えてくれたようです。




こんな遊び心を私たちは大事にしたいと考えていて、
今回のカフェもこれだけで終わるのではなく、
何かの形で保育の中に生かされていくと思います。
今回は「瓶」から始まった取り組みですが、
こんなちょっとしたことからも楽しむことを探していく姿勢は
子どもたちにも体験を通して伝えていきたいことです。

保育につなげていくための何かを探そうとすることとか
保育の場を少しでも楽しいものにしようといったことを
いろんな角度から考えることも大事なんじゃないかなあと思います。
ヒントはいろんなところに転がっているはずです。
真正面から考えることはもちろん大事ですが、
時にはちょっと違うところから考えてみたりすることも
必要だったりするんですよね。

そんなことを楽しみながら考え実行してくれるスタッフを見ていて
なんだかうれしくなりました。



2012年9月21日

No.262  手づかみはいけないこと?

今週の水曜日に行政の栄養士さんがあさり保育園の食事を見に来られました。子どもたちと一緒に食事をしながら食事内容や食事風景も見ていただきました。そしてその結果、ごはんと味噌汁を中心にした食事についていい評価をいただいたのですが、それ以上に意欲的に食べている姿を評価してもらったことが私にとっては嬉しいことでした。見ていただいたのは0,1,2歳児の食事風景が中心だったのですが、子どもたちが意欲的に、そして何より楽しそうに食べている姿をすごいと思ったという感想で、まさにそれが私たちが大事にしていることだったからです。

県内を始め全国の保育園の方と交流していると、食事に関しても本当に様々な話を聞くことがあります。最近聞いて驚いたのは「赤ちゃんが手づかみで食べることを禁止している保育園」の話です。内容はそのままなのですが、大人が食べさせるか、スプーンなどを使って食べること以外は認められないそうです。私たちも決して食べるときの作法はどうでもいいなんて思っていませんが、でも赤ちゃんは食べたいという気持ちから思わず食べ物に手が出るということは当然あります。そうした食べたいという意欲は子どもの自然な姿であり、まずはその意欲を大事にし、そこに手の力や手先の器用さが育ってくることでスプーンなどを上手に使って食べられるようになる、というのが子どもの自然な発達の進み方であるはずです。手づかみを禁止することで確かに自分も汚れずに、更には周りも汚さずに食べることはできます。でも汚れて不快だと感じることも発達には大事なことですし、手で食材の感触を十分にあじわうことも五感を刺激するため発達には大きく影響してきます。食事を単に栄養の摂取と考えるのではなく、様々な体験の場と捉え、子どもの発達にどうつながっていくかという観点からも考える必要はあると思っています。

他の子どもと一緒に食べることを通して他の子の食事の様子を見ることももちろん大事ですし、そこから生まれる楽しさを共有することも大事です。好き嫌いなんかも、意欲や楽しさを大事にすることや他の子の様子を見ることを通して減らすことができるという調査結果も出ています。食事内容はもちろんですが、どのように食と向き合うかということも丁寧にこだわっていき、食事という生活の場の質を高めていきたいと思っています。生活は、生きるために必要な様々なことを学ぶ、大事な大事な活動です。

2012年9月20日

保育園からのアプローチによる連携の取り組み

「小学校との連携」の取り組みについて、全国保育協議会の会報に書かせてもらいました。1年前に書いていたものを今回まとめ直しました。記録のためにもここに載せておくことにします。



子どもたちのための連携とは

あさり保育園は、平成12年4月に公立園が民営化された、定員60名の保育園です。小学校との連携については、年1回の話し合いや交流活動などはあったものの、果たしてそれが子どもたちのためになっているのか分かりませんでしたし、小学校で○○をするようになるから保育園ではそれに向けての準備をという考え方も、丁寧に整理して考える必要があると感じていました。

保育所保育指針には小学校との連携について「(ア)子どもの生活や発達の連続性を踏まえ、保育の内容の工夫を図るとともに、就学に向けて、保育所の子どもと小学校の児童との交流、職員同士の交流、情報共有や相互理解など小学校との積極的な連携を図るよう配慮すること。」と書かれています。この中の「子どもの生活や発達の連続性を踏まえ、保育の内容の工夫を図る」ことがまずは連携の基礎であると考え、保育の内容を固めていくことから始めました。

子どもの発達を考えたとき、例えば行動抑制力をつけるためにはまず自己主張をし、やりたいことを十分に行う必要があります。小学校へいってじっと座ることができるように保育園で座る練習をするのではなく、保育園では子どもがやりたいことを自分で考え自発的に取り組める環境を保障しています。遊びのゾーンを設置したり、活動を選択できるようにしたり、そのときの発達課題に確実に取り組めるよう年齢で集団を分けず、活動によって柔軟に集団を作っていく形をとったりしています。小学校ではこうしているからそれに合わせて…と子どもの発達を上から見ていくのではなく、0歳からの発達をしっかりと保障していくことが連携の基礎になければいけないと考えています。


学力の基礎となる探究心を育てる

また、全ての学力の基礎になるのは物事に対する探究心です。探求心がなければいくら文字が読めても数が理解できても、学習に対する意欲は高まりません。子どもの意欲の低下は調査などでも明らかになってきていますが、小学校での学習に対して意欲的に取り組めるようになるためにも、保育園で探究心をいかに育てていくかは大きな課題です。森の中で1日中過ごす活動を行っていますが、自然の中にあるものに対して興味を持ち、思う存分そのものと触れ合うことで不思議さを感じることも、探求心を育てる大事な活動と位置づけています。これらのことは小学校との直接的な関わりではないですが、連携の大事な出発点と捉えています。


日常的に行き来のできる関係づくりを

具体的な連携としては情報の共有、職員の交流があります。主には近くの小学校との連携ですが、子どもの情報を共有するために、年度末だけでなく年度の初めにも話し合いの場を設けてもらうようお願いしています。以前は学期ごとに行っていたのですが、現在は3月と5月の年2回となっていて、ここには園長以外に保育士数名も参加します。それとは別に、不定期ですが、校長先生や教頭先生と話をする場を設けてもらっています。保育園で行っている取り組みの意味を理解してもらうことや、小学校での学習について理解することが目的で、必要性を感じたときに園長が随時小学校へ出かけていって話をさせてもらいます。保育園と小学校という立場の違いはあるますが、子どものことについて語る場はこちらからの動き次第で作ることはできると実感しています。

また夏休み期間を利用して小学校の先生が1名ずつ保育園に来られ、保育士体験をされる活動が続いています。子どもたちの生活を実際にじっくりと見てもらうことで、子どもに対しての理解だけでなく保育に対しての理解も少しずつ深くなってきているように思います。保育園の職員が小学校の授業の様子を見学させてもらう場も、必要に応じて設けてもらっています。頻繁に話し合いをするようになってから、保育園と小学校の行き来も盛んになってきています。連携のためにも日常的に話のできる関係作りは重要だと思っています。


園児と小学生の主体的な交流

子どもたちの交流としては、小学校の5年生と3、4、5歳児が年4、5回に渡って交流する機会もあります。この取り組みでは小学生にとっても園児にとってもコミュニケーション能力の向上を期待した取り組みになるように工夫をしています。小学生と園児が混ざって6人程度のグループを作り、小学生が中心となってどこで何をして遊ぶかを決める活動なのですが、園児から意見を聞き出すのに最初は苦労をしています。発達差が大きい中でのコミュニケーションは互いに伝えることや理解することに工夫を必要としますが、回を重ねるごとに上手くコミュニケーションを取ることができるようになり、その様子からもこうした活動は大切だと思っています。ここで交流する5年生と年長児は次年度の6年生と1年生になり、小学校でもいい関係を築いているようです。


特別支援学校の教諭からのアドバイスも

支援の必要な子どもに対しての取り組みとしては、地域の特別支援学校の先生に定期的に保育園へ来ていただいて子どもの様子を見てもらい、保育に対してのアドバイスをしてもらっています。いろんな角度から子どもたちを見てもらうことで、よりよい支援のための気づきを少しでも多く得たいという思いから、この定期的な訪問を特別支援学校にお願いし実現しました。行政が動いてきちんとしたシステムが作られることももちろん大事ですが、それにはどうしても時間がかかります。であるなら、こちらから行動を起こしてつながりの必要性を訴え支援の輪を広げていくことは、これからも必要になってくると思います。


今後の課題-さらなる共通理解を

小学校だけでなく様々な機関と連携を取ることで、子どもたちの育ちについての共通認識はスムーズにできるようになったと思いますし、特別な支援を必要とする子どもについては、就学に向けての混乱はずいぶん少なくなったと思います。ただ、現状は同地区にある小学校との連携に限定されているので、その他の小学校との連携についても検討していく必要はあります。さらには子どもの0歳からの発達についての共通理解にはまだまだ十分ではないところがあるので、続けて対話を行っていくことが今後の課題でもあります。