2015年10月30日

No.418 外遊びについて

久しぶりに雨が降ったりしましたが、今年の秋は気持ちのいい天気が多いですね。秋は自然の変化を楽しむにはもってこいの季節。植物の変化を楽しんだり、アキグミをとって食べたり、栗やサツマイモを園庭で調理して食べたりと、秋を満喫したりしています。もちろん外遊びを楽しむのにもちょうどいい気候で、子どもたちは全身を動かして遊ぶことを楽しんでいます。今回はその外遊びについての興味深い話を紹介します。

外遊びについてのある研究結果を見つけました。その研究結果とは、『積極的に体育指導を取り入れている幼稚園・保育園よりも、自由に遊ばせている園の子どもの方が、運動能力が高い』というものです。これは東京学芸大学名誉教授・杉原隆氏が調査されたもので、25メートル走や立ち幅跳びなど6つの種目について、9,000人の幼稚園児の運動能力を調べた結果だそうです。このことについて、3つの理由が挙げられています。①「大人が決めたことをやらせる」よりも「子どもがやりたいことをやる」方が、高い意欲をもって取り組める。②「説明を聞く時間・順番待ちの時間」。自由に遊ぶ子どもたちのほうが、実際に体を動かしている時間が長い。③動きの種類の豊富さの差。定められた運動を繰り返すよりも、好き勝手に鬼ごっこ・木登り・鉄棒・ジャングルジム・砂場遊び・秘密基地作りなどをしている方が、多くの種類の動きを経験できる。



幼児期は体全体を育てていく時期。特定の動きや筋力を訓練して育てていく時期ではありません。特定の体育指導を行ってどれだけの効果があるんだろう?という疑問をもっておられる方は少なくないと思います。研究結果からも分かるように、やはり幼児期は総合的に体を使う方がいいんですね。ちなみにあさり保育園の園庭は、ただ歩き回るだけでも様々な動きを経験することを狙ってデザインしています。例えば、あらゆる箇所で丸太を越えないと前に進めなかったり、様々な物をよける動きも頻繁に必要だったり、地面の固さも様々なのでバランスをとらなければいけなかったり。また、様々な動きを必要とする遊び場も少しずつ増やしてきています。あさり保育園の園庭の大きな特徴と考えています。そして何よりも大事だと思うのが、①の高い意欲をもって取り組むことです。子どもたち自身が遊びを選択することによって、その遊びへの熱中度は高まります。外遊びに限らず、このことは保育園生活のあらゆる場面で大切にしていることです。こうした研究結果から子どもたちの活動や環境を検証することも大事ですね。



2015年10月24日

霜降

二十四節気

霜降…霜が降りる頃という意味。
霜降(そうこう)とは、朝晩の冷え込みがさらに増し、北国や山里では霜が振り始める頃。露が霜に変わり、だんだんと冬が近づいてきました。

七十二候

2015/10/24
初候 霜始降(しもはじめてふる)
氷の結晶である、霜がはじめて降りる頃。昔は、朝に外を見たとき、庭や道沿いが霜で真っ白になっていることから、雨や雪のように空から降ってくると思われていました。そのため、霜は降るといいます。

2015/10/29
次候 霎時施(こさめときどきふる)
ぱらぱらと通り雨のように雨が降りはじめる頃。雨が降ったかと思えば、すぐに青空が顔を出します。初時雨は、人々や動物たちが冬支度をはじめる合図だといわれています。

2015/11/03
末候 楓蔦黄(もみじつたきばむ)
もみじや蔦が色づいてくる頃。葉が赤色に変わることを「紅葉」と呼び、銀杏のように黄色に変わることは「黄葉」と呼びます。また、秋の山が紅葉することを「山粧う(よそおう)」といいます。

「暦生活」より

2015年10月23日

No.417 ちょっとした共通点

先日、東大教授の梶田隆章氏がノーベル物理学賞を受賞されました。ニュートリノという物質が質量を持つことを発見したことが今回の受賞につながったようですが、このニュートリノのことを含めて研究内容について私は全く理解できていません。なので内容には触れず、ノーベル賞と保育のちょっとした共通点について考えたことを書きます。

ニュートリノが質量を持つことは、岐阜県の神岡町にあるスーパーカミオカンデという研究施設で発見されました。この施設は1996年に作られたもので、「50,000トンの超純水を蓄えた直径40m深さ41.4mのタンクと、その内部に設置した11,200本の光電子増倍管からなる、地下1,000mに位置する施設」と、全てがとんでもない規模の施設です。しかもそこで行われる研究によって私たちの生活に直結する豊かさがもたらされるかというと、そのような種類の研究ではないと思います。ということは、一般的な“効率・非効率”の基準に照らしてみると、おそらくこの施設や研究は非効率の部類に入るんじゃないでしょうか。でもこの施設があったこと、この施設を作ろうという思いが20年前、30年前の日本にあったことが今回のノーベル賞につながったのは間違いありません。つまり今回の受賞は、結果が出るかどうか分からない、すぐに役に立つかどうか分からない研究に資源を投入してきた過去の日本の姿勢が評価されたと言えなくもないわけで、そのことを私たちは理解しておく必要があると思っています。

さて保育のことに話を移すと、保育の中にも非効率なこと、どんな力につながっていくのか分かりにくいものがたくさんあります。そんなものだらけかもしれません。ハイハイの時期を歩く練習に費やすと、もしかすると早く歩けるようになるかもしれません。子どもたちの個の違いや意思とは関係なく一斉に同じように動かそうとすると、もしかすると無駄の少ない活動ができるのかもしれません。でも、“今”にこだわり少しでも早く結果が出ることを求めて、少しでも無駄なく効率的で“有益”な保育を目指して、それで子どもたちが得られるものは一体何だろうと考えます。子どもたちの活躍の場が“今”であればそれでもいいのかもしれません。でもそうではないですよね。活躍の場は大人になり社会の中心となっていくとき、つまり20年後、30年後であるはずです。そこを見据え、基礎となる力を確実につけていく時期が乳幼児期で、ここに力をかけることが20年後の社会のあり方に大きく影響してくると思っています。「すぐに目に見える力」にはつながらないとしても、後に必要となる力の獲得に向けた取り組みは大切にしていかなければなりません。ノーベル賞も保育も効率的な道はなく、しっかりと先を見据え、今を信じて地道に進み続けることが、どちらにおいても大事なことなんでしょうね。

2015年10月16日

No.416 エディーヘッドコーチの話から

ラグビーのイングランドW杯を楽しんだ方はどのくらいいるんでしょうか?子どもの頃、新日鉄釜石の松尾雄治選手のプレーを興奮しながら観ていた私は、当時のことを思い出しながらしっかりと楽しませてもらいました。どう見ても体格やパワーで劣る日本代表がここまで強くなった理由について非常に興味を持って観ていたんですが、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチが帰国後のインタビューで興味深いコメントをしているのを聞いてなるほどと思ったことがあります。今回はそれを紹介します。

エディーHCは次のようなことを話されています。

「日本のラグビーは本領発揮できていないと常に思っている。日本には優秀な選手がたくさんいる。日本では高校、大学、トップリーグでも高いレベルでパフォーマンスする指導ができていない。規律を守らせるため、従順にさせるためだけに練習をしている。それでは勝てない。」
そして陸上選手を引き合いに出し、
「足の速い選手に中距離選手の練習をさせたら、彼のスピードは失われます。ウサイン・ボルトはマラソンランナーのような練習はしません。ラグビー選手を育てる練習をしないといけない。そうすることにより日本のラグビー界の層を厚くすることができる。すると競争力も上がり、優秀な選手が増えた結果、代表チームが強くなります。」

これはラグビーだけの話ではないですよね。例えば「例えば、規律を守ること、従順であることが必要以上に求められていないでしょうか。」という部分。これは集団の考え方の問題を指摘しているようにも思います。みんなが同じように行動する集団が求められる時代から、個性を発揮することで他に貢献する、カバーし合う集団が求められる時代にシフトしてきているわけですが、規律や従順さを必要以上に求めていることは今でもいろんな場面であると思います。じっくりと考えたいことです。

そして「足の速い選手に中距離選手の練習をさせたら、彼のスピードは失われます。ウサイン・ボルトはマラソンランナーのような練習はしません。」という部分。これもとても大事なことですよね。以前紹介した「杉の木の両親と松の木の子ども」でも同じことが取り上げられていました。子どもの個性を伸ばし、その個性を活かして社会で活躍してもらいたいという思いは誰でも同じだと思います。だとすれば、子どもの個性を先入観抜きで見ることが出来ているか?その個性を潰してしまうようなことを押し付けてはいないか?そんなことを常に確認する必要があると訴えているように思います。

みなさんはエディーHCのインタビューを読んで、どんなことを感じましたか?

2015年10月9日

No.415 研究発表も行います

既にお知らせしているように、10月24日(土)に島根県保育研究大会が江津市で行われます。みなさんの協力のおかげで、多くの職員がそこへ参加することができそうです。ありがとうございます。自分たちの園の保育については自分たちが考えなければいけないのですが、「自分たちだけで」というのはどうしても限界があります。多くの人から刺激を受けることでしか得られない気づきもあるので、そのための貴重な場と捉えて学んできたいと考えています。

その研究大会において、あさり保育園とさくら保育園が研究発表をすることになっています。自分たちが行っていることを整理し、多くの人に見てもらって意見をもらい、そこからまた自分たちの取り組みを振り返る機会と捉え、昨年度から研究発表をさせてもらっています。自分たちの考えを大勢の人の前で発表することは簡単なことではないのですが、そこに職員全員で協力し挑戦してくれていることをありがたく思っています。今年度はK保育士が中心になって取り組み、発表も行ってくれます。

今回発表するテーマは乳児の「共感」です。例として取り上げるりす・うさぎ組の活動の場面にこんなものがあります。年度当初は食事の際に子どもたちのおしぼりを保育者が配ってあげていたんですが、今ではその役を代わりにやってくれる子どもが出てきています。1人ひとり名前を呼んで「どうぞ」と言いながら配ってくれています。大人からやってもらっていたことを今度は自分がやってあげるという、役割交代というものです。この役割交代を通して、子どもは相手がどんな思いでその行動を行っていたのかを察することにもなります。そうやって他者の思いを察することができるようになるのが共感で、その共感ができるからこそ相手を助けようとする思いも育っていきます。

この役割交代は他者に共感する、すなわち社会性の基礎の力を獲得するために必要なことで、だからこそ役割交代を十分に行うことが必要です。大人がやるとすぐに終わってしまうことでも、子どもに任せると時間がかかるかもしれませんし、上手くいかないこともあるでしょう。でも大事な体験だからと思い切って任せることも必要です。そして何よりもその体験をするための他者の存在があることが大事です。いろんな役割をもって活動している他者を見る場があるからこそ、その役割を自分がやってみようという気持ちが湧いてきますし、やってあげる対象(例で取り上げたおしぼりを配る場面では配ってもらう子どもたち)がたくさんいることで体験の意味はより深まります。こうした役割交代の体験を豊かにしていくことも今後の課題と考えています。

2015年10月8日

寒露

二十四節気

寒露…露は結び始めの頃。
寒露(かんろ)とは、夜が長くなり、露がつめたく感じられる頃。朝晩の冷え込みはきつくなりますが、空気が澄んだ秋晴れの過ごしやすい日が多くなります。夜空を見上げると、より美しくきれいに輝く月が見られます。

七十二候

2015/10/08
初候 鴻雁来(こうがんきたる)
ツバメと入れ違いに雁が北から渡ってくる頃。雁は日本で冬を過ごし、暖かい春になるとシベリアの方へ帰っていきます。毎年、初めに訪れる雁を「初雁(はつかり)」と呼びます。

2015/10/14
次候 菊花開(きくのはなひらく)
菊の花がさく頃。各地で、菊の展示や菊まつり、品評会が行われます。菊には不老長寿の薬効があるとされ、旧暦9月9日の重陽の節句には、菊の花を酒に浮かべた菊花酒を飲む風習がありました。

2015/10/19
末候 蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)
蟋蟀が戸口でなく頃。この候の蟋蟀は、夏から冬にかけて見られ、鈴のような音色を響かせるツヅレサセコウロギだと言われています。ギーッチョンと機織りのように鳴く蟋蟀ではありません。

「暦生活」より

2015年10月2日

No.414 試行錯誤している段階です

運動会が終わりました。みなさんは今回の運動会をどのように感じられたでしょうか?子どもたちの“今できること”は見てもらえたでしょうか?どの行事もそうなのですが、よかったと思える点があるのと同時に改善すべき点が見つかります。行事に完成形なんてないので当然のことです。ここで見つかった改善すべき点は次への課題です。運動会で見てもらう子どもたちの姿が完成形ではなく次の課題に向けて進んでいる成長の途中であるように、今年のあさり保育園の運動会もまだまだ内容を深めていくために試行錯誤している段階です。子どもの成長する姿を見ながらあたたたかく応援するのと同じように、あさり保育園の運動会(に限らず他の行事も)の変化をあたたかく見守っていただきたいと思います。



分かりにくいかもしれませんが、上の写真は年長児のリレーの対戦表です。当日の放送にもあったように、運動会前から競争を重ねてきました。作戦を立て、順番を変えたりしながら競い合った結果は、赤が8勝、白が5勝です。前半はほとんど赤が勝っていたのが、だんだん白も勝つようになってきています。勝負を繰り返す中で作戦を立てる話し合いは両チームとも上手になっていったと思いますし、勝ちたい思いはどちらも強くなっていったと想像しています。運動会当日だけを見れば白の勝利ですが、やはりそこに至るまでの過程を大切にしたいですし、だからこそその部分をいかにみなさんに伝えるかを考えなければいけないと思っています。子どもたちの「今」を見てもらうことで、その背景にある様々な体験の積み重ねを感じてもらうことは、行事の目的でもあると考えているからです。



運動会の次の行事は発表会です。ここでは言葉と表現の育ちを見てもらうことが目的です。そして子どもたちの「今」だけでなく、その背景の保育園での様々な体験を感じてもらうことにももちろん力を入れていきます。日々の生活、子ども同士の関わり、身の周りのものに触れることなど、様々な体験によって言葉や表現の土台が作られていきます。大きな青虫を見つけた子どもが、その嬉しさを共有しようと友だちを呼んでいました。青虫をつつくと汁を出し、それを気持ち悪がって悲鳴をあげています。外見や動きをじっくり観察し、見たこと感じたことをそれぞれの言葉で伝え合っています。青虫の動きを真似したりもしていました。よくある出来事ですが、育ちにつながる大事な要素がたくさん詰まっています。