私は2002年から保育の仕事に関わるようになったのですが、その時から「子どもにとって必要な食事とはどんなものなんだろう?」ということを、漠然とではありますが考えていました。食べ方、食べさせ方、野菜の栽培活動からクッキングなど、そんな情報はたくさんあったのですが、“何を食べるか”の情報が以外と少なく、また、あったとしてもまるでレストランのメニューのような内容だったりで、これだ!というものになかなか出会えずにいました。
そんな悩みを抱えていたある日、保健所の方が監査に来られ、保育所の献立等のチェックが行われました。その時の担当者が言われたことに軽い衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。「カルシウムが少し足りないですね。そんな時は牛乳をいろんな料理に入れてみるといいですよ。例えば酢の物に牛乳を入れるとか…。」牛乳を入れるとより美味しくなるとか、より食べやすくなるとかならまだ分かるのですが、カルシウムが足りないから牛乳を…といった考えで作り上げていった食事が果たして本来の食事のあり方なのかと、その言葉を聞いた後、何度も何度も考えました。
栄養素について考えることが無駄だとは思っていません。でも栄養素から献立を考えることって、極端な話ですが、行き着く先は『必要な栄養素を確保できるだけのサプリメントの摂取で十分』なんてことになってしまうと思うんです。食事ってそんなものじゃないですよね。その時期にとれるもの、その土地でとれるものをいかに美味しく食べていくかという知恵を、私たちはたくさん受け継いできています。その時期にとれるものにはその時期に必要なものが、その土地でとれるものにはその土地で暮らす人にとって必要なものがたくさん詰まってる、そんな大きな視点で食を考えることが今は欠けてきているのかなあと思ったりもします。そんな大きな視点の中に、子どもたちの食を考える上での大きなヒントがあると、あらためて考えたわけです。
その意味では、幕内先生と出会い、食事について更に考えを深めるきっかけをもらえたことはありがたかったと思っています。まず保育所での食事の主食は全てごはんとし、当然おかずもごはんに合うものへと変えました。おやつも大事な第4の食事と捉え、おにぎりに変えました。そのように変えたことで「子どもたちは美味しく食べてくれるだろうか」とか「おやつがおにぎりばかりでは子どもたちが不満を言うのではないか」といった心配も多少はありました。でもそんなことは杞憂にすぎませんでした。子どもたちは食事内容を変更したことで、今まで以上に意欲的に食べるようになったんです。ごはん、味噌汁、おかずという至ってシンプルな食事ですが、始めた当初と1年後を比べると米の消費量が約3割も増え、そして残食は減りました。また、当たり前のことではあるのですが、ごはんに合うおかずを作っていくことで油の使用量が大幅に減ったことも、調理担当者とともに驚いたことです。さらに、おやつをおにぎりにしたことで夕方までしっかりと遊ぶ子が増えるという変化も見られました。胃袋がまだ小さい子どもが一日通して元気に活動するためには、おやつに何を食べるかがとても重要だと確認することができました。
このように食事内容の見直しによっての子どもたちの変化はうれしいことが多くありました。やはりどのような食事内容にするかは重要なわけですが、それ以外の“食にどこまで関わるか”や“どんな食事の場を用意するか”ということも、子どもの食を考える上では非常に重要だと思っています。次回はそんなことにも触れてみたいと思います。
※おむすび通信vol.68(2011年10月)に掲載されたものです。
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