2011年9月30日

No.213 子ども同士の関わり調査

今手元に「子ども同士の関わり調査表」というものがあります。私たちも所属している全国の研究会で調査しようとしているものなのですが、この調査の趣旨にはこのように書かれています。『「幼稚園における2歳児受け入れに関する調査研究」で、「幼児同士が関わり合って遊ぶ姿は見られない」と断言されていますが、果たしてこれは本当でしょうか?この疑問を保育現場から提案していきたいと考えています。』

これ、今話題になっている「幼稚園と保育園をどう一体化していくか」という議論の中で必ずと言っていいほど出てきている話です。子ども同士が関わり合うのは3歳児からで、それまでは家庭で過ごすことが大事という内容です。ここで言う「家庭」とは、ほとんどが家庭=母親という意味で使われています。子どもにとっての母親の存在はとても大切で、そのことを否定するわけではありませんが、「家庭=母親」ということで3歳までは家庭で過ごすことが大事だと言われると、ずいぶん乱暴な意見だなあと思ってしまいます。

以前の家庭とは決して母親に限定したものではなく、多くの兄弟がいて、祖父母がいて、隣近所の人がいて、といった感じで、「家庭」には社会の機能が十分にあり、様々な人との関わりの場がありました。子どもたちはそんな様々な関わりの中で育つ、それが「家庭で育つ」ということの本来の意味のはずです。でも今はそんな状況が圧倒的に少なくなっています。親との愛着関係だけでなく、それを基礎としていろんな発達段階の子と関わったり、いろんな大人や社会と関わったりすることが子どもの育ちには重要だという意見を、もっと多くの人に理解してもらいたいと思っています。

上で書いた調査表には例えばこんな項目があります。「他児を意識してみたり、指さしをする」「他児のおもちゃに興味を示し、取ろうとする」といった姿は、保育所では0歳児同士でも見られる姿です。自分が育つために無駄なことなんてするはずのない0歳児が、そのように他者との関わりを見せるということは、それがどれだけ必要なことかは簡単に想像がつきます。保護者のみなさんも同じように感じておられると思います。例に挙げた項目の内容も、シンプルですが大事な関わりです。このような関わりを生み出すことのできる保育園の役割は、もっと整理してアピールすべきなんでしょうね。

2011年9月22日

「復興の狼煙」ポスタープロジェクトチームのみなさまへ③

第3弾。


「復興の狼煙」ポスタープロジェクトチームのみなさまへ


散らばったパズルをひとつひとつ拾い集めるように、少しずつ少しずつ大切な日常を取り戻してきました。

壊れたピースもたくさんあります。失ったピースもたくさんあります。

でも、その空虚を埋めるように優しく包み込んでくれる「思い」がたくさん届きました。

行き先の霞む未来に、希望を持つ勇気、前を向く勇気を与えてくれたのは、そんな東北に向けられた強く温かな「こころ」でした。

いただいたご恩に報いるまでには、まだまだ多くの時間が必要です。

この狼煙が篝火とかわり、そして美しく煌めく灯火となってこの町を燦々と照らしてくれるその日まで。

どうか、見守っていてください。

ポスターと向き合っていただいた愛に、心から感謝と敬意を表します。



平成23年9月
「復興の狼煙」ポスタープロジェクト
制作者

「復興の狼煙」ポスタープロジェクトチームのみなさまへ②

続いて第2弾。


「復興の狼煙」ポスタープロジェクトチームのみなさまへ


手を携えられる仲間が、たくさんいることを知りました。

今日よりも明日を、輝かせることができるのだと知りました。

それでも、日々迫りくる現実に時折のみ込まれそうになるけれど、歯を食いしばって前を向き、ゆっくりと一歩ずつ歩き出すことを決めました。

この地に立ちこの風にふれながら創りだす未来が、この海のように美しく煌めくことを願い、「復興の狼煙」を上げます。

みなさま、少しだけ力を分けてください。

この小さな狼煙を、大きく、大きく空へ掲げる力を。

ポスターと向き合っていただいた勇気に、心から感謝と敬意を表します。



平成23年6月
「復興の狼煙」ポスタープロジェクト
制作者

「復興の狼煙」ポスタープロジェクトチームのみなさまへ①

「復興の狼煙」のポスターを取り寄せたら
こんな手紙が一緒に入っていました。
穏やかだけど、とても力強い言葉です。
せっかくなのでこの文章もここに載せておきます。

まずは第1弾。


「復興の狼煙」ポスタープロジェクトチームのみなさまへ


釜石人として、岩手人として、東北人として、日本人として。

己の意地と誇りをかけた長く険しい戦いが、幕をあけました。

今はまだ劣勢です。未来はまだ見えません。

でもいつの日か、必ず、新しい三陸を創ります。

取り戻すのではなく、創るのです。

この、鋼鐵の意志を届けたくて、釜石から「復興の狼煙」を上げました。

ポスターを手にしてくれたみなさま。

貼る場所も、渡す相手も、見つめる時間も、すべてみなさまに委ねます。

どうか、力を貸してください。どうか、狼煙を伝えてください。


まずは、受けとっていただいた勇気に、心から感謝と敬意を表します。



平成23年5月
「復興の狼煙」ポスタープロジェクト
制作者

No.212 共生、自尊心、つながりなど

運動会が無事に終わりました。夏祭りに続いて運動会でも「つながり」をテーマの1つにし、東北地方へ心を向けることを意識して取り組んできたわけです。3月からこのことばかり書いている気もしますが、繰り返し書いているのは何よりも震災のことを優先して考えなければいけないとか、そんな風に考えているわけではありません。ただ、今回の震災は私たちにとても大切なことを訴えかけていて、そのことには静かに丁寧に耳を傾けなければいけない、そう受け止めているからです。

例えば、自然を人間の都合のいいように利用するのではなく、私たちも自然の一部であり、自然と共生していくことを目指すべきだということを改めて教わりました。そのためにも、自然に対して深く関心をもち、その自然と共に楽しく遊ぶ体験は欠かせないとも思いますし、その体験から子どもたちが得るものは非常に大きいと思っています。「もくもくの日」の取り組みにはそんな思いも込められています。

また、この震災後に「リジリエンシー」という言葉を学びました。これは立ち直る力、回復力という意味で、船が傾いたりしたときにふっと戻ろうとする力のことを言ったりもします。このリジリエンシーという力について、子どもの行動からの研究も進んでいることを知りました。そこでわかってきたことの中には、くよくよしないなどの性格もあったりしますが、注目したいのは「自尊心が高いと立ち直りに結びつきやすい」「立ち直りには、家族、教師やきょうだいといった社会のサポートがどの程度得られるかにも影響される」ということです。子どもが困難な状況にありストレスがかかっているとき、自分の価値を信じることできる自尊感情、子どもの決断や上手くいかなくてもなんとか自分をコントロールしようとしている姿を評価してあげることが大切なようです。

震災は、自然との『共生』、困難から立ち直るために大切な『自尊心』、そして他者や社会との『つながり』など、大切な課題を与えてくれています。子どもたちがこれからの社会を力強く生きていくことを考えたとき、これらはもっと大切にされるべきことのはずです。次世代を担う子どもたちのために、私たち大人がそんな思いや姿勢を見せてあげたいと思っています。今、小さな小さな展示会を計画していますが、これもその取り組みの1つです。保護者のみなさんにぜひ見ていただきたい展示会です。

2011年9月16日

No.211 他の子がいるから楽しいとか

明日はいよいよ運動会。水曜日には予行練習が行われましたが、子どもたちの表情を見ている限り、それぞれに楽しさを感じながら運動会の活動に取り組んでいるように思います。一人ひとりが今どんなことができるようになったかを、保護者のみなさんと一緒に楽しみたいと思います。

予行練習の様子を見ていて感じたことを少し書いてみます。子どもたちはそれぞれにいろんな運動に挑戦するわけですが、これって一人だとなかなかここまではできないんじゃないか、そんな風に思うことがホントにたくさんあるんですよね。

例えば築山にかけてある橋を渡ることにしても、高い木に上って下りてくることにしても、一人ではちょっと怖いけど、友だちも挑戦してるからやってみようという気持ちになったり、リレーの最中、隣の子と顔を見合わせてニコニコ笑いながら走っていたり、他の子が走っている姿を夢中になって目で追ってみたり。そんな姿がたくさん見られた予行練習でした。

他の子ががんばっているからそれに刺激されて、というのも集団の持つ大事な力です。でももっと大事にしたいと思うのは、他の子と共に取り組んでいることに対して楽しさを感じることです。ここで何度も書いていることですが、他人と協力することの大切さは子どもたちに伝えたい大事なことと考えています。

そのためにも、他の子と一緒に過ごす経験や、一緒に何かに取り組むことを楽しんだ経験が欠かせないと思っています。いろんな人がいるから楽しいと自然に思えたり、いろんな人が力を合わせることで一人ではできないことができたり、またそれを楽しいと感じたり、そんな体験が協力とか共生につながる大事な基礎となっていきます。そうした体験の場が多く生まれる運動会になればうれしいですね。

そして最後にもうひとつだけ。そんなことわかってると言われてしまうかもしれませんが、「自分を信じて見ていてくれる」という保護者のみなさんの存在は子どもたちにとって安心感となり、それが子どもたちの生き生きとした活動を支えてくれます。「信じて見ているからやってごらん」という思いをみんなで子どもたちに伝えることのできる、そんな運動会になることを期待しています。
(天気予報では不安なマークがチラチラ見られるようになりました。ドキドキしながら待とうと思います。)

2011年9月15日

第三者評価の結果が公表されています

第三者評価の結果が公表されています。
この第三者評価を受審する前は、
運営面ばかりで保育の中身まで見てもらえないんじゃないか、
そんな風に思っていました。

でも、何事もやってみないとわからないものですね。
評価者にもよるのかもしれませんが、
保育に対する思いをかなり重点的に取り上げてもらえました。
その点をすごくうれしく思っています。

細かいことは評価結果に書かれているので省略しますが、
「事業者のコメント」に書かせてもらったことは
ちょっと長いですが、ここにものせておこうと思います。

私たちと第三者がそれぞれの立場から
「保育とは何か」ということを発信していくことが
これからはますます重要になってくると思っています。
そんなことを改めて考えるいい機会となりました。

「第三者評価結果に対する事業者のコメント」

この度第三者評価を受審することで、取り組まなければいけないことをあらためて確認することができました。そこまでは予想できていたのですが、自分たちの強みを確認する機会にもなったことはあさり保育所にとって意味は大きいと考えています。

何をしているか、何が出来ているかは当然ですが、何よりも「どんな思いを持って保育を行っているか」という点について力を入れて評価してもらえたことで、更に思いを高めていこうという意欲を刺激されました。この意欲こそ、保育の質を高めていく原動力であり、保育者の主体的な活動に繋がっていくものと考えているので、本当にありがたく思っています。

第三者に対して保育の重要性をいかに伝えるかは、保育者としての大きな課題であるため、評価者に対して保育をどのような言葉を使って伝えるかを考えるという意味で、第三者評価を受審することの意義を感じています。

少子化の今、そして社会のあり方を見直す必要のある今、社会全体で乳幼児教育をどう捉え取り組んでいくかはますます重要になってきます。第三者評価が、単に運営面を評価するだけでなく、その保育というものの価値を新たな角度から発信してくれることを期待しています。


評価結果はこちらから → あさり保育所第三者評価結果

2011年9月8日

No.210 感じたこと・考えたことをいくつか

今回は、今週感じたこと・考えたことをいくつか簡単に書いてみます。まずはある保護者とお話をしたときに感じたことについて。

ある方がお話の中で「親子の距離感って大事だと思うんですよね。近すぎても良くないし、遠すぎても良くない。長く子育てをしてきたからこそ見えることなんだろうけど、そんな風に思うんです。」といったことを言われました。話の内容はもっといろいろあったんですが、この思いっていいなあと素直に思えました。

今、私が抱えている大きなテーマの1つに「愛着からソーシャルネットワークへ」ということがあります。どういうことかと言うと、「今までは子どもの育ちを考えるとき、どうしても親子の(特に母子の)愛着関係が注目され、研究されてきた経緯がある。でも実際の子どもを見ていると、親子関係だけでなく、様々な人や社会との関わり(ソーシャルネットワーク)が重要だということは明らかで、その重要性についてもっと丁寧に考え研究する必要がある。」ということです。余計にわかりにくくなってしまったでしょうか。

親子の関係、子ども同士の関係、祖父母や地域の人との関係など、様々な人や社会とのつながりの中で育つことが大事で、そのつながりの程よいバランスを見つけていかなければいけない、そんな風に思っています。そしていろんなつながりがあるということだけでなく、親子の関係ひとつとっても、近すぎず遠すぎず、そして一方的な関わりではなく双方向の関わりが必要、といったバランスがやはり大事です。そのバランスについて積極的に考える場、特に子ども同士の関係を大事にできる場、そんなことが保育所の大きな特徴でもあり役割でもあると、お話をしていてあらためて思った訳です。

いくつか書こうと思ったのですが、1つの話でこんなに書いてしまいました。なのでもう1つは簡単に。

先日の役員会でもお話しして、ブログにも少し詳しく書いているんですが、子どもと保護者がみんなで木を植える活動を計画しようと思っています。今年起きた震災のことを忘れないように、その思いがいろんな人につながっていくように、そしてその活動がうれしく楽しい思いを生んでくれるように、そんな思いを込めた植樹活動です。計画がまとまればあらためてお伝えしますので、楽しみにしておいてください。この植樹活動も来週の運動会も、夏祭りに続いて“つながり”が1つのテーマになっています。

復興の狼煙 ポスタープロジェクト

「復興の狼煙 ポスタープロジェクト」より

『3月11日、地球が小さく呼吸しました。
それはわたしたちにとってあまりに大きくそして悲しい呼吸でした。
町は色を失いました。
思い出として語らうまでにはどれだけの月日が必要かわかりません。
そろって歩みだすにはあまりに深い傷だし、未だ現実に向き合うことを許されぬ東北の仲間もいます。
それでも、わたしたちは生きています。
たくさんの支援とたくさんの愛情と、そしてなにより「自分にできること」を探してくれたたくさんの想いすべて。
しっかりと受け取りました。
わたしたちは、このエネルギーを大切に大切にはぐくんでいくつもりです。
月日が経ちこのポスターが色あせた時、沿岸の町は活気の色に染まっているはずです。
みていてください。
この地から「ありがとう」を形にできるその時まで。
さぁ、復興の狼煙が上がりました。
まずは釜石から。』






このポスター、見ていると心を打たれます。
「被災地の方々のために」ということも当然ありますが、
見る人一人ひとりがこれらの写真や言葉から何を受け取るか、
そんなこともすごく大事な気がします。

受け取る側がどう受け取るかによって
”つながり”はいくらでも豊かになっていく、
そんな風に思っています。

復興の狼煙 ポスタープロジェクト

2011年9月6日

木を植えてみませんか?

“つながり”というテーマを大事にしようと考えた今年度、
次の活動は「木を植える」ということを提案してみます。
そう思ったのは糸井重里さんの書かれた文章を読んで、
深く深く共感できたからです。

『「木を植える」というのは、どうだろう。
ふと、そう思いつきました。
今年、2011年という年に、東北ばかりでなく、
全国どこでも、木を植えるというのどうでしょうか。

ひょろっこい苗木が、頼れるような太さになったころ、
「あの震災の年に植えたんだよね」なんて、
ちょっと懐かしむくらいの気持ちで、
その木を見ることになるでしょう。
きれいな花をつける木だったら、
花の咲く時期には、うれしそうに人々が集まるでしょう。
植えられた木と同い年の子どもが、おとなになったころ、
「どういう思いで植えたんだろうね」なんて、
いまのおとなたちの気持を想像するかもしれません。』


“つながり”というテーマを掲げた夏祭りでは募金活動を行いました。
「大人たちは何をやってるんだろう?」という疑問でもいいから
子どもたちにはこの年に何かを感じてほしい、
この年に感じたことをこの先どこかで思い出してほしい、
そんな思いで行った活動です。

で、今度は木を植えてみようというわけです。
この年に木を植えることがいろんな形となって
子どもたちの思いや行動につながっていくとしたら、
それはとてもうれしいことです。
その木がこの先の園庭での遊びをもっと楽しくしてくれる、
そう考えたらとても楽しくなります。

「そんなことをうれしいことや楽しいことを想像しながら
みんなで木を植えてみませんか?」
そんな提案をしてみようと思っています。

2011年9月1日

No.209 運動会の話と、共感する力の話

9月17日(土)は運動会。毎年のことではありますが、大事なことなので目的を書いておきます。

あさり保育所では運動会を「子どもの運動能力の発達を保護者に伝える」「親子のふれあいを提案する」「保育を厚くする」という3つの目的で行っています。まず前半は「運動能力の発達」を伝える内容のもの、後半は「親子のふれあい」を楽しんでもらう内容のものを予定しています。

園庭での遊びには、走る・歩く・登る・下りる・ぶら下がる・渡る・またぐ、引っ張る・押すなど、子どもたちの動きを表す動詞の数だけ運動の要素があります。パッと浮かんだのがこのくらいで、実際にはもっとたくさんあるでしょうね。それらの動きを子どもたちは日々遊びの中で行っています。

もちろん子どもによってどんな運動が得意か、またそれがどの程度できるかは違っています。その違いは当然のこととして、一人ひとりが今どんなことができるようになったか、どんな風に成長しているか、保護者のみなさんに伝えることのできる場にしたいと思っています。

子どもたちの普段の遊びの様子を見ていると、一人ひとりがどんな運動に興味があるかがずいぶん違っていることを感じます。走るのが好きな子、雲梯が好きな子、木登りが好きな子、自転車に乗るのが好きな子など、本当に様々です。決してやらせているのではなく、子どもたち自身の“やりたい”という気持ちから始まっている行動です。

保育所の話ではないのですが、子どもの行動について、「興味がないことにも挑戦してもらいたいんだけど…」という話を耳にすることがあります。その気持ちもわからなくはないのですが、やはり私は興味をもつことから始まるのが大事だと思うんです。

では、どうすれば興味が広がっていくか。ポイントは他の子どもたちの気持ちに“共感する”ことだと思っています。自分一人では興味の広がりには限界があると思います。でも、他の子どもが楽しそうに取り組んでいるのを見て、自分も楽しく感じることができれば、そこから様々な方向へ興味は広がっていきます。

他人が感じている気持ちをあたかも自分のことのように感じる力は、脳のミラーニューロンの働きです。他者との関わりの中で育っていく“共感する“力をつけていくことは、子ども集団のある保育所の大事な役割です。この“共感する”力の大切さについては、またいつか書いてみるつもりです。