2012年5月10日

No.243 無重力状態1

少し前のことですが、国際医療福祉大学の高橋泰教授が「敬老精神の介護に潜む落とし穴」という記事を書いておられました。そこには宇宙ステーションに長期滞在をしていた野口さんが例として書かれています。野口さんは、地球に帰還したとき重力の存在する生活に備えるために毎日宇宙空間で筋力トレーニングを行っていました。人間の身体は使わないと急激に機能が低下します。特に筋肉は無重力の影響が大きく、数日使わないだけでみるみる細くなります。無重力状態では、筋肉を使わないで立つことができるため一見楽ですが、地球に帰還した時に、地球の重力により発生する自身の身体の重みを自身の筋力では支えきれなくなってしまうのです。

このような無重力状態の宇宙飛行士と同様、筋肉への負荷が大幅に減少する状況に直面し、急速に筋力が低下している人たちがいると高橋さんは指摘します。それは、過度に生活支援や介護を受けている高齢者であるというのです。日本の介護の基本は敬老精神だと言います。日本人の心情からすると、ある動作を行うのが大変になったお年寄りを見ると、ついつい何かをやってあげたくなります。たとえば自分で買い物に行けるのに、「大変そうだから」という理由で誰かが代わりに買い物に行くと、それまで下肢の筋肉にかかっていた負荷がなくなることがあります。すると、筋肉は軽度の負担にかまけて足が急速に細くなり、外出に必要な筋力を失うことになってしまうと言います。そして、このような状況が続くと、間もなくトイレへ行くのも大変になってしまうのです。そうすると、今度はトイレに行くときにも援助を行うと、さらに筋力が落ちるという悪循環に陥ってしまっているというのです。

これを読んでいて、いろいろと考えさせられました。これは高齢者に限ったことではなく、子どもにも言えることじゃないかと。子どものためにと、子どもが育つために本来経験すべきことを大人が代わりにやってあげてしまうとしたら、それは子どもを無重力状態で赤ちゃんを生活させているのと同じで、自分たちがやれることを奪ってしまうことになりますよね。そうすると失うのは筋力だけじゃありません。地球に帰ったとき、つまり子どもにとっては大人になったとき、自分自身でさえ支えられなくなってしまう、そんなことが起こっても不思議ではありません。これは少子時代の今、特に気をつけて考えなければいけないことだと思っています。この続きは来週にでも…。

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