「子どもの文化」という本にあさり保育園のことを書かせてもらったので、ここにも載せておきます。『子どもの生きるリズムに沿う』というシリーズです。
見守る保育は、子どもの生活、遊びのリズムを保障する
私たちの保育園で行っている保育は「見守る保育」と呼ばれることがあります。
これは新宿せいが保育園の藤森平司園長が提案され、全国各地の保育園でも実践されている保育の考え方です。「見守る」という言葉を使うとき、見ているだけでは良くないのでは?と言われることがありますが、そうではありません。子どもたち一人ひとりの発達過程をしっかりと「見」て、しっかりと「守る」、そして発達に応じた適切な「援助をする」というのが「見守る保育」の考え方です。そしてこの「見守る保育」はリズムということからも説明することができます。それは、子どもの生活のリズムや遊びのリズムを保障することも大事なポイントだからです。ここではそうしたリズムを保障する保育について、私たちの保育園での実践を通して説明します。
その子に合ったリズム
まず生活のリズムを保障することについてです。大人の生活にリズムがあるように、子どもの生活にもリズムがあります。生活のリズムは家庭によってずいぶん違っています。
例えば、朝起きる時間に始まり夜寝る時間まで、家庭によって様々なリズムがあります。そんなことから考えても、一人ひとりの子どもの生活のリズムが違っているのは当然のことです。それなのに保育園で全員が同じリズムで行動することを求めると、当然リズムが乱れてしまう子が出てきてしまいます。保育指針の第三章には、情緒の安定のために「一人ひとりの子どもの生活リズム、発達過程、保育時間などに応じて、活動内容のバランスや調和を図りながら、適切な食事や休息が取れるようにする。」と書かれています。子どもの情緒が安定するように、私たちは一人ひとりの生活のリズムを保障することが必要になります。なので、家庭は家庭、保育園は保育園と切り離して考えるのではなく、家庭との連続性を考慮し、個々の生活リズムに応じるよう心がけています。
●赤ちゃんからの食のリズム
例えば食について。まず赤ちゃんですが、ミルクを欲しがるタイミングや飲む量はそれぞれ違います。家庭でいつ、どのくらい飲んだかによっても違いますし、その日の活動内容によっても違います。それなのに、全員が同じ時間に同じ量を飲ませるようなことは決してありません。赤ちゃんが求めるタイミングで、求める量を飲めるように、保育者は赤ちゃん一人ひとりの生活リズムを把握し、違いを把握し、要求に応えるようにしています。そして3,4,5歳児の食事はセミバイキング方式で行っています。自分の食べたい量を当番の子に伝え、よそってもらうやり方です。赤ちゃんの場合と同じように、朝、家庭で何を食べてきたか、どれだけ食べてきたかも違うため、個々によって必要な量は違っています。また、その日の気候や活動内容、気分によっても食べたい量は変化します。そんな違いに対応できるのもセミバイキング方式の特徴です。自分に必要な量を選択して、友だちとの会話を楽しみながら食事をとることが、午後の活動も主体的に行えることにつながるので、食事の時間も生活のリズムを保障するための大事な時間と捉えています。
●睡眠のリズム
次に睡眠についてです。以前私たちの保育園では、午後1時頃から3時頃まで全員が一斉に午睡をするようにしていました。しかし、これは多くの保育園で見られる光景だと思いますが、中にはどうしても午睡のできない子がいます。その子たちはじっと布団に入っていることができず、時には騒いだりして他の子を起こしてしまうこともありました。子どもは一人ひとり体力も違います。午睡が必要な子もいれば、午睡をしなくても午後の活動に影響のない子もいますし、午睡が必要な子の中にも短時間の午睡で十分な子もいたりと様々です。そこで保護者と相談しながら、3・4・5歳児には午睡をするかどうかを選択してもらうようにしました。そうすることで、午睡を必要としない子は自分のリズムを崩すことなく生活できますし、必要な子は誰にも邪魔されることなく十分な睡眠をとることができ、リズムを守ることができます。また、必要ではあるけれど時間は短めで構わない子は少し遅れて午睡のスペースに移動したり、早く目覚めた子は起きている子どもたちと同じスペースへ移動したりしています。全ての子どもたちに同じ睡眠のスケジュールを当てはめるのではなく、生活リズムは個々によって違うことを考慮し、眠たい子は寝て、眠たくない子は静かに過ごして体を休めるといった、様々な睡眠・休息が選択できるようにすることが大事だと考えています。
保育空間とリズム
保育園の空間をどのように設定するかも、リズムを保障する観点から工夫しています。例えば遊ぶスペースと食べるスペース、寝るスペースを独立させていることがそうです。もしそれらが独立しておらず、同じスペースで共用しているとしたら、強制的に一斉に活動を中断させられる場面が出てきてしまいます。例えば積木遊びが盛り上がってきて大きな作品が出来はじめていたとします。でも食事の時間になれば準備をしなければいないため、積木遊びを中断して片づけなければなりません。子どもたちがイメージを共有しながら楽しんでいて、更に発展していきそうな状態であったとしても、そこで強制的に中断しゼロの状態に戻すことになります。でも私たちの保育園では、遊と食のスペースを独立させているため、「あとちょっとで完成するから…」を認めてあげて切りのいいところまでやらせてあげることができます。そのことで集中力が身につきますし、保育者からいわれてではなく自分で納得して区切りをつけることで、自分から次の活動へスムーズに移っていく自律を学んでいくことにもなります。また、積木ゾーンでは作りかけの作品はそのままで残しておくことが認められているので、遊びに集中でき、安心して次の活動へ移れることにつながっています。
●食事のスペースと寝るスペース
そして食事のスペースと寝るスペースの場合です。子どもたちは一人ひとり食べる早さが違います。もしも寝る場所が同じ場所であれば、決まった時間までに布団の準備をしなければいけないため、食べるのが遅い子がいたすると、ある時間で食事を切り上げるか、食べている途中でも準備をしなければいけないケースもでてきます。布団を敷くときはたくさんのごみやほこりが出ることになるため、そこで残って食事をする子にとって望ましい環境とは言えません。食事は友だちと話をしたりしながら、みんなで一緒に食べることを楽しむことが大事です。決して時間内に食べることが一番の目的ではありません。かといって、食事の時間が長引いたからといって睡眠時間が少なくなってもいいかというと、それも避けたいところです。一人ひとりの食事のリズムも睡眠のリズムも保障するためにも、やはり食と寝のスペースは独立させておくことが必要だと考えます。
遊・食・寝のスペースを独立させるうえで、保育者同士の連携も重要になってきます。それぞれのスペースが独立しているということは、食事のスペースで食事の準備が進んでいるときに遊びのスペースで遊んでいる子がいたりと、常に複数の場所で子どもたちの活動が行われていることになります。それぞれの場所での活動に保育者が対応するためには、複数の保育者で連携をとることが必要です。私たちはチーム保育を行っていて、誰がどのスペースを担当するかを当番制で決めていますし、急な出来事に対しても子どもの体調が悪くなった等の出来事があった場合も声を掛け合うことで対応できるようにしています。子ども一人ひとりのリズムを考慮した保育を行うためにも、複数の保育者でチーム保育を行うことは重要な点であると考えています。
●遊びのゾーンがいくつもある
遊びのゾーンについてもう少し触れておきます。私たちの保育園では、何かがしたい!と思ったときにそれがすぐにできるように、常設の遊びのゾーンをいくつも用意しています。
前述の積木ゾーン、ごっこ遊びゾーン、製作ゾーン、絵本ゾーン、ゲームゾーン、文字・数・科学を取り上げたふしぎゾーンといった感じです。子どもは遊びから多くのことを学んでいくわけですが、それは「やらされて」ではなく自分自身が興味を持ったときに強く促されます。興味・関心を持ち、そこから自発的に環境に働きかけることで成長していくのが子どもたちです。となると、興味・関心を持ったそのタイミングを逃さないようにしてあげる必要があります。例えば何かを作りたくなったとき、製作ゾーンには材料や道具が揃っていることを子どもたちは普段から知っているため、すぐにそこへ行って製作活動に取り組むことができます。園庭で見つけた虫について調べようと思ったとき、ふしぎゾーンには図鑑が置いてあることを知っているため、すぐにそこへ行って調べることことができます。そのように、何かをしたい、何かを知りたいと思ったタイミングを逃すことなく活動に移せることも、子どもたちの活動にリズムを生み出すことにつながります。すぐに実現できなければ興味が薄れてしまうこともあり得ます。興味がすぐに実現することでその体験が楽しいものになり、そのことで更に次の興味が沸いてきて…といった、リズムを生み出すことも、子どもの遊びを考えるうえで重要な点です。そのためにも、各ゾーンが子どもの興味・関心に応える場であるよう準備をするために、保育者は子どもたちが今何に強く興味を示しているかを把握しておく必要があります。それには、普段から子どもたちの遊びの様子をよく見て、そのことについて話し合い、常に各ゾーンのあり方について見直しをするようにしています。
日々の生活にメリハリをもたせる
行事を大事にしていることも、子どもたちの生活リズムを保障するために必要なことと捉えています。ハレとケという言葉があるように、年中行事や祭などの非日常である「ハレ」と、普段の生活である「ケ」が保育園の生活の中でうまく混ざり合っていることは、子どもたちの生活にリズムを与えてくれます。七夕会、お月見会、もちつき会、豆まき会、ひな祭り会などの年中行事は、日本や地域の伝統行事を子どもたちに伝承するというねらいもありますが、日々の生活にメリハリをつける目的もあります。このメリハリによって生活にリズムが生まれ、それが情緒の安定につながります。そんな大事な行事だからこそ、子どもたちにストレスを与えるような内容ではなく、楽しんで意欲的に取り組めるような内容を計画しなければなりません。そのためにも、まずは保育者がその行事を、そして準備の段階からも楽しみ、その楽しむ姿を子どもたちにも見せるようにしています。
子どもたちは情緒が安定することで自発的に環境に働きかけるようになります。そして、そのことによって学びを得て成長していきます。情緒の安定に欠かすことにできない「生活、遊びのリズム」を保障することは、子どもたち一人ひとりの発達過程をしっかりと「見」て、しっかりと「守る」、そして発達に応じた適切な「援助をする」という「見守る」ことにつながります。そのため、様々な場面で一人ひとりの「生活、遊びのリズム」を保障することを大事にしています。
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